あなたの色に染められて
第27章 お気に入りの場所
『ちょっと 直也先輩!あれ…どういうことですか?』
後輩マネジャー萌ちゃんが指差す先はベンチ上のスタンド席。
『ん?…なにが?』
『あれって京介先輩ですよね?』
『…プッ…だね。』
前もそうだった。璃子ちゃんがそばにいると場所を選ばず独占する。
『あの膝枕してる人…誰ですか?』
でも スタンド席で膝枕なんて。髪を撫でられてクスクスと笑い声が聞こえてきそうな そんな甘い雰囲気で
たった4日しか一緒にいられない時間。あんなことがあって会えなかった時間を埋めるように寄り添って
『璃子ちゃん。京介さんの彼女。』
『…彼女…?』
『そ。』
『…いたんですか…彼女…』
璃子ちゃんがアメリカに発ってから 練習の手伝いに来てくれるようになった まだ大学生の萌ちゃん。
そういやぁこの子 京介さんの後ろをチョコチョコとついて歩いてたっけ。
スタンドの二人を見詰める寂しげなその表情。
『無理だよ。…諦めな。』
『…え?…わ…私別に…』
『京介さん 璃子ちゃんにゾッコンですから』
『だっ!だから!違いますって!』
傷が深くなる前に俺は忠告した。萌ちゃんにとって叶わぬ恋になるのがわかってたから。
私の視線の先。いつもクールな京介先輩が彼女の膝の上で私の見たこともない柔らかい表情して微笑んでいる。
彼女の有無よりも あの京介先輩が膝枕をしている。そんな状況に私の胸は苦しくなった。
*****
夏の暑い日。人が足りないから手伝ってと声をかけられて参加した練習。
ボール運びにおしぼりや飲み物の用意。高校の時以来だったけど 久しぶりに触れる野球はやっぱり楽しくて暑さの中 走り回る私。
そんなときだった。私が差し出したおしぼりを
「はいどうぞ。」
って 逆に私に渡してくれた人。
「ヘルメット被ってるから暑いだろ。」
優しく微笑むその眼差しに
「あ…すいません…」
一瞬で恋に落ちた。
それから私は毎週のように顔をだし 京介先輩に近づき話も普通にするようになった。
クールで大学生にはない大人の雰囲気をもった京介先輩に私はどんどん惹かれていった。
今 私の視線の先 あの時よりももっと優しく微笑む京介先輩。
…なによ
見せつけるみたいに髪なんか撫でちゃって…
知らない彼女に嫉妬した。