あなたの色に染められて
第27章 お気に入りの場所
『…ハハッ…もう食ってんだ…』
夜勤明けの美紀ちゃんとランチに行って来ます。なんて わざわざメールを寄越す璃子。
昼休み 弁当を持ちながら食堂に向かう時間を利用して電話をした。
『…ハイハイ…わかったよ…』
電話を通した璃子の声はなんだか幼く感じる。その声を聴くと 頬が緩むのは必然で…
『…19時には帰れると思うから…あぁ…楽しんでおいで…』
連休明けの火曜日。
忙しいのはわかっていた。早く帰るには本当は昼飯なんて食ってる場合じゃないけど
璃子がわざわざ早起きして俺のためにと作ってくれた弁当。それはそれで楽しみで。
窓際の空いてるいつもの席に座り 弁当を広げる。
高層階にあるうちの社食からの眺めはかなりいい。
真っ直ぐに見えるのは東京タワー。少し斜めにレインボーブリッジ。
そして俺の目の前には 彩りよくバランスを考えられた弁当。
すげぇ…卵焼きなんてハートの形してるし…
いつも 社食で日替わり定食を食ってる俺。それはそれでずいぶん助かっているけど
…いただきます…
やっぱり璃子の飯にはかなわない。
卵焼きのハートの片割れを頬張ると 先輩たちが日替わり定食を手にして俺の隣に座ってきた。
『…おっ…森田が弁当なんて珍しいな。』
『…なんだよ…彼女の手作りかぁ?…』
『…はい…まぁ…』
『しょうが焼き弁当なんて彼女もやるねぇ』
こういうのって 少し恥ずかしいもんなんだな。卵焼きの片割れ食っといて正解だわ。
*****
『へぇ。お揃いねぇ』
『…えへへ…』
私の薬指をジロジロと見ながら 美紀はパスタを口に運ぶ。
『…あえて右手ね…』
『…あはは…こっちはねぇ…特別だから…』
『今度冷やかしてやろうっと』
美紀からランチのお誘いが来たのはちょうど家事を終えた時だった。
二人でゆっくり話すのも随分と久しぶり。
『…美紀のおかげだよ…』
『…ううん…離れられない運命だったんだよ…』
“運命”かぁ。
ロスを出発する前は寄りを戻すなんて考えもしなかった。
でも 抱きしめられたあの時 私はやっぱり京介さんじゃなきゃダメなんだって
お互いがきっとそう思ったはずなんだ。
『もう 手放しちゃダメだよ』
『…うん…』
薬指のリングを確かめるように親指で撫でる。
やっぱり 私の癖になった。