あなたの色に染められて
第27章 お気に入りの場所
『ただいま』
『おかえりなさ~い』
笑顔で出迎えてくれた璃子にバックとコートを手渡すと パタパタとスリッパを鳴らして俺の背中を追いかけてくる。
『お風呂は?』
『あぁ…時間もったいないから 送ってから入るよ』
『じゃ すぐにご飯にしますね』
俺はYシャツの上からカーディガンを羽織り リビングに戻った。
『すぐに出来ますから手洗ってきて下さいねぇ』
たった4日間だったけどこの部屋に璃子が帰ってきた。
部屋は綺麗に整頓されて 洗濯物はすべて洗われてクローゼットの中に収まっている。
次にこいつが俺の部屋で甲斐甲斐しく動き回るのはいつなんだろう。
後ろから抱きしめたい衝動に駆られるけど 抱きしめてしまったら俺はきっと璃子を困らせることを言い出す。
…笑顔で送り出さなきゃな…
鏡の中の自分にそう言い聞かせた。
『おっ…カレー? 唐揚げも!』
『…ヘビーでしょ…』
京介さんの好物をテーブルに並べた。
『これ もしかして 人参のドレッシング?』
『…うん…』
覚えててくれたんだ。はじめて料理をした日に出した私の特製ドレッシング。
『いただきます!』
『はい…どうぞ』
京介さんは顔の前で手をパチンと合わせて カレーを頬張る。
ニコニコしながら食べるその姿は本当に見てて気持ちがいい。
『おかわりある?』
まだ 半分も食べてないのに
『…ウフフ…ありますよ』
私はまだスプーンも持ってないのに
『あっ!…ありがとな…弁当すげぇ旨かった』
『…よかったぁ…』
このまま一緒に居られたら 毎日でも作ってあげられるのに
『みんなに少し冷やかされちゃってさ。』
『ヤダ!見せたの?』
『社食で食うからしょうがないだろ…おかわり!』
なんでもない日常を送ってしまったのがいけなかったのかな。
旅行にでも行ってこの部屋に来なければ もっと楽に向こうに帰れたかな。
別れの時間は刻々と迫って来ていた。