あなたの色に染められて
第28章 離れていても
『まだ怒ってんの?』
「…別に…」
『…別にって…怒ってんだろ』
昼休み 最近この時間は璃子と少しだけ言葉を交わす。
ロスは19時。璃子は仕事が終わったころ。
俺は昼飯を早々に切り上げて 缶コーヒーを片手に近くの公園のベンチに腰を掛け
「…だって…あんなにピターッって…」
『…だから…朝も言ったろ…そんなつもりじゃないって…』
コイツがご機嫌ナナメな原因…それは誰かがアップした祝勝会の写メ。
女に腕を組まれ 寄り添ってる後ろ姿が 端っこのほうに小さく写ってるとご立腹で
「…京介さんはそのつもりがなくたって…」
きっと 口を尖らせ頬をぷぅっと膨らまして
「…その子は…好きかもしれないじゃん…」
ヤキモチ妬いてくれるなんて…
目の前にいたら確実に俺の腕のなかに引き込むのに
『…おまえ 可愛いな…』
「…すぐに誤魔化すんだから…」
Yシャツの上からリングを確かめ 目を閉じてその膨れっ面を瞼の裏に映して
『…俺は璃子だけだって言ったろ…』
きっとおまえも親指でリングを確かめて
「…京介…」
再会してから 俺を求めるときにだけ呼び捨てにするコイツが堪らなく愛しい。
『…わかったなら返事は?…』
「…はぃ…」
『よろしい。』
電話の向こうでクスリと微笑む璃子。本当に俺の気持ち伝わってる?
「…逢いたいな…」
『…そうだな…』
そっちに行ってからおまえ 随分気持ちをストレートに伝えられるようになったな。
「…逢いたいよ…京介…」
それはアメリカでの生活に慣れたから?…日本にはまだ帰ってこれないから?
璃子の気持ちを聴けて嬉しい反面 不安もよぎる。
『Skypeにするか?』
「…ううん…もっと逢いたくなっちゃうから…」
おまえも俺と同じなんだな。
樹々の隙間から空を見上げれば 雲ひとつない真っ青な空で
おまえが住むアメリカの空は満点の星が輝く星空で
時間は違うけど 俺たちはこの空と一緒…ちゃんと繋がってるから
「…ごめんね…そろそろ時間だね…」
『…あぁ…』
「がんばれ!…信金さん!」
『…ハイハイ…がんばりますよ』
きっと 今日も残業だ。
…逢いてぇなぁ…
甘い声を耳に残して 本当は俺の方が…なんて想いながらエレベーターに乗り込んだ。