あなたの色に染められて
第29章 HAPPY BIRTHDAY!
『おぉ~ いらっしゃい!』
『待ってました!!』
あれからかれこれ2時間。やっとこのテーブルに先輩の彼女は顔を出した。
『みなさん お久しぶりです!』
彼女は私に軽く会釈をすると トイレに立った先輩の席に腰を下ろした。
『忙しく世界を飛び回ってるらしいじゃん』
『そんな…大袈裟ですよ。』
『京介さんが寂しがってたぜぇ。』
みんなが彼女との会話を楽しんでいると先輩がトイレから戻ってきた
でも…座る席が…なんて勝手に心配していると
先輩は壁と彼女の間に強引に体を滑り込ませて
『よいしょ。』
…え…
『もう 狭いですよ。』
彼女を先輩の脚の間に入れるように座った。それはまるで彼女専用の座椅子のようで
『お前が俺の席取るからじゃん。』
『もう いっつもそうなんですから。』
席を取らなくていい理由はきっとこっちだったんだって
先輩は壁に凭れて 彼女の茶色くて柔らかくウェーブがかった髪を優しく撫でていて
それは “愛されてる” そんな言葉がぴったりな情景
私の心はどんどん沈んでいくばかりで
『そう言えば…璃子。』
『はい?』
彼女がくるりと体を捻らせると 先輩は彼女の顔を被う髪を耳にかけ 私のことを顎で差して
『こいつ ほら 野球手伝ってくれてる。』
…紹介なんてしてもらわなければ良かった
『あっ…萌です…20歳です…えっと…はじめまして…です。』
早口で捲し立てるように言葉を発して頭を下げると
彼女は大きな目をキョトンとさせて私を見つめたあと 背筋をピシッと伸ばして
『あっ…はじめまして…うんと…璃子です…京介さんがいつもお世話になってます。』
彼女らしい台詞を加えて 首を右側に傾けてその大きな目を細めてくれた
『こっ…こちらこそ…お世話になってます。』
このとき初めてちゃんと璃子さんを見た。
仕立ての良さそうなアイボリーのサマーセーターにデニムのショートパンツを穿いて真っ白な脚をさらけ出し
首もとにはキラリと揺れるハートのネックレス。それは璃子さんの肌の白さをより際立たせていて
『ん…これ?』
『はぃ…可愛いですね。』
だってそのネックレスは本当に似合ってたから
…なんなの…
胸はどんどん苦しくなっていく
京介先輩の優しい瞳はケラケラと笑う璃子さん包み込んでいた。