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あなたの色に染められて

第29章 HAPPY BIRTHDAY!



『…あの場面で真っ向勝負だぜ 痺れたよなぁ』

『ホント…いい試合でしたね』

地元の駅についても興奮覚めやらない俺たちは 駅ビルの中の食料品売り場で買い物をして家路についた。

『でも ホームラン見たかったなぁ…』

『それは俺が見せてやるって言ったろ』

玄関に入っても話が止まらない俺たちって なんだかいいコンビだなって思ったりして

『あっ…洗濯物…』

外はだいぶ陽も落ちて 西の空は紅く染まっていて

早速エプロンを身に付けてキッチンの前に立つ璃子はしおりに書いてあった“お誕生日会”の支度に取りかかってたから

『いいよ 俺がやるから』

『…ありがと…ごめんね…』


当たり前の事なのかもしれないけど 璃子はどんな小さなことでもお礼を言ってくれて

こいつの個性なのか家庭環境なのか 男兄弟のなかで育ったガサツな俺には 心が暖まるっていうか 癒されるっていうか

『あっ お風呂も…』

『…いいから…璃子は“お誕生日会”の用意してろ』

『…ウフフ…じゃ お言葉に甘えて…ありがとね…』

…ほらな… あいつの回りがパッと華やぐんだ。


鼻唄混じりに手際よく料理を作る璃子の後ろ姿を ソファーに座りながら眺めていた。

…なんでも券…

使い道は決まっていた。

…私のできる範囲で…

璃子は首を縦に振ってくれるかな。きっと戸惑うと思うんだけど


~♪~♪

『璃子~…電話鳴ってる…』

タオルで手を拭きながら テーブルに置いてあったスマホを取り

『…もしもし…たっちゃ…あっ…先生?…』

その瞬間クルリと背を向けて窓の方へ進みながら話す相手は たぶんアイツで…

『…えっ…ないの?…もうひとつのスーツケースは?…』

俺よりフランクに話してんじゃねぇのって

…だって…“たっちゃん”…だぜ…

『…あった?…もう…』

そいつとひとつ屋根の下で暮らしてる。わかっちゃいるんだけどな

『…ゴメンね…今忙しいの…うん…』

考えてみりゃ 俺より長い時間を共有していて

ヤツはまだ璃子への気持ちが残ってんじゃねえかって…

『…じゃ…待ってればいいの?…うん…わかってるよ……うわっ!…』

…堪らなかった…

俺は璃子を後ろから抱きしめた。

…俺の誕生日に電話してくんじゃねぇよ…

廻した俺の腕に添えられた璃子の手が優しくて さらにキツく抱きしめた。

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