あなたの色に染められて
第30章 大切な人
『普通の家だって。』
京介さんの話ではこの地に代々受け継がれている酒蔵で創業130年余り。 当主は京介さんのお父様。お兄さんが後を継いでいて
『どこが普通なんですか?!』
大きな蔵の間を抜けるとその先に純和風の立派な平屋のお家が見えてきた。
…お屋敷じゃん…
『璃子…口開いてんぞ』
『…んぅ…』
見るものすべてが私の想像を遥かに越えていて。
だって さっきまで商店街の酒屋さんに挨拶に行くんだって思ってたわけで
…どうしよ…
玄関まで続く長い石畳の両側には手入れの行き届いた日本庭園が広がり奥には池まであって
…カコン…
鹿おどしの音まで響いている。
『…待って…心の準備が…』
手を引かれやっと辿り着いた玄関はまるで老舗の旅館のようで
『大丈夫だから。』
見上げた京介さんの顔はとても穏やかで 私に優しく微笑んで
『この家に女を連れて来たのは璃子がはじめてなんだ。』
『そうなんですか?』
『いつものお前でいいから。っていうか…いつものお前でいろ』
『…はい…』
ギュッと握ってくれた手を私も握り返して 顔を見合わせると 繋がれたその手を離して
ガラッ
『ただいま~』
京介さんにすべてを託した。
『お帰りなさい…あら。本当に連れてきてくれたのね。』
『…はじめまして…高円寺璃子です。』
『はじめまして 京介の母です。』
笑顔が優しくて綺麗なお母様だった。
『親父と竜兄は?』
『さっき揃って蔵に居たけど…呼び出してみるわね』
長い縁側を通り抜け 通された部屋は大きなソファーが中央に鎮座するリビングで
『…わぁ…』
サイドボードにはたくさんのトロフィーや写真が飾られいて
『可愛い… 京介さん小さいですね…あっ 坊主だぁ。』
そこには私の知らない京介さんがたくさん飾られていて
『お兄さん?』
『そう。竜兄…長谷川さんと同級だったんだよ。』
お揃いの高校のユニホームを着て肩を抱き合うイケメンな二人。
『おぅ京介。』
『思ったよりも早かったな。』
お父様とお兄さんが部屋に入ってくると
『はじめまして…高円寺璃子です。』
『ウソ!璃子ちゃんって長谷川が言ってたあの璃子ちゃん?』
『あら やだ!噂の?』
どうやら私のことを知ってる様子で…
京介さんと私は“どういうこと?”だと顔を見合わせた。