あなたの色に染められて
第30章 大切な人
3人揃って「そうかそうか」とニコニコしながら
『まぁ 立ち話もなんだから』
『あっこれ。つまらないものですが…』
『うわぁ 嬉しい!ここのジェラード私の大好物なのよ。』
京介さんが優しく微笑んで私の頭にポンと手を置くと
『おいで…璃子。』
私をソファーに案内してくれた。
『京介が事故で入院した時に長谷川と幸乃が家に頭下げに来たんだよ。』
『長谷川さんが?』
『そう。病院じゃ四六時中 遥香がお前の側に居て話せなかったから。』
『京介には心底惚れた女性がいますからってね。お父さん。』
『…ふ~ん…』
照れる京介さんを見てお母様はコーヒーをローテーブルに置きながらクスクスと笑って
『よかったわ。京介が酷いことをしてアメリカに旅立ってしまったって聞いてたから…。』
『悪かったね…璃子さん京介が病気とはいえ酷いことをして。』
『…いえ…私が悪…』
『もう 過ぎたことだからいいだろ。っていうか…ちゃんと紹介させろよ。』
京介さんは私を気遣って話を切ってくれた。そうだよね…記憶喪失の時の私たちは本当に苦しかったから。
『ごめんなさいね…璃子ちゃん。私たちも嬉しくて舞い上がっちゃって…』
明るくておしゃべりなお母さまとそれを優しく見守るお父さま。京介さんはお母さま似かな…
そして京介さんに負けず劣らずのイケメンさんな竜介お兄さん。奥さんとこの近くに住んでいて奥さんはただいま妊娠中。お昼頃に顔を出すそうで。
私はと言えばもう皆さんご存じの様で…
皆さんの優しい笑顔が緊張していた私の心をほぐしてくれた。
『よし 片付けてくるか。』
もう少し仕事が残っているからと席を立ったお父さまとお兄さん。蔵でも案内しようかと京介さんに誘われて私たちも一緒に席をたった。
蔵へと続く石畳を京介さんの背中を見ながら進んでいく。
『どうぞ…』
お酒の甘い香りが染み付いた蔵の中には 見上げるほどの大きな樽が鎮座する。
『…すごい迫力ですね…』
『この時期は仕込みも何もしてないから ガキの頃はよく兄貴とかくれんぼして遊んだよ。』
二人してヤンチャで野球ばっかりしてたってお母さまが仰ってたっけ。
『なにニヤニヤしてんだよ。』
『何でもないですよ…ウフフ』
『じゃ 次こっち。』
そっと繋ながれた手は 今も変わらず私に幸せを運んでくれた。