
あなたの色に染められて
第30章 大切な人
『いい娘じゃん。』
『だろ。俺にはもったいねぇの。』
『だったら早く…』
『解ってるよ…でも まだアイツ アメリカに住んでんだよ。頻繁に仕事では戻ってくんだけど。』
香織ちゃんと笑顔で話ながら洗い物をしている璃子をソファーから眺めていた。
『いつ帰ってくんだよ。』
『わかんねぇ。っていうか 璃子がアメリカに発った理由も知ってんだろ?復縁したからって都合良く帰って来いなんて言えねぇよ。』
大事なことなのに俺はこの話から避けてた感じで。
『さっきね 香織ちゃんとお嫁さんに来てねって話したらすごくいい顔してたわよ。』
『俺だって一応考えてるから。』
酒蔵を兄貴と継ぐ話も俺たちの将来の話も考えてみたら具体的に璃子に話したことなんてなかった。
ただ“俺のモンだ!”って俺が一人で言ってるだけで。
『京介…女の子は言葉で伝えないとわからないのよ。ましてや結婚ともなるとね。』
『そうだな。遥香のこともあったし璃子ちゃんからはなかなか言えねぇよな。』
『あ~もう!わかってるって。』
まだ先生との関係を少しだけ心に引っ掛かっている俺。開くのが怖い璃子の心の扉。
日本に…俺のところに戻ってこい!って言えたらどんなに楽か…
『どうしたんですか?京介さん。』
『…ん?別に何でもないよ。』
洗い物を終えた璃子が俺の横にちょこんと座るとみんなクスクスと笑いだし
『…なんだよ…何が可笑しいんだよ。』
『だってねぇ。ウフフ…璃子ちゃんが傍にいるとそんな顔するんだなぁって…ねぇお父さん。』
『ハハハッ。おまえは野球以外にはいっつも冷めてたのにな。璃子さんが変えてくれたんだな。京介 大切にしろよ。』
『なんだよ親父まで…。』
俺の横で微笑む璃子は気が付けば俺の家族の中にすっかり溶け込んでいて
『京介が悪いことしたらすぐに電話してね!ここにいるみーんな璃子ちゃんの味方だからね!』
『はい!そのときはすぐにでも!』
『ガキじゃねぇんだから。ホント マジで勘弁してよ。』
久しぶりに家族の笑顔を見た気がした。
高校から兄貴とプレーしたくて寮生活をしてまでやらせてもらった野球。
今度は俺たちが親父とお袋をしっかりとカバーしねぇと…
そういえばいつまで 9回裏ツーアウト満塁やってんだって。
早く一人前の男になんねぇと ホームランも打てねぇな。
