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あなたの色に染められて

第30章 大切な人



『直也先輩…。京介先輩今日は来ますかねぇ。』

『どうだろうね。』

ゴールデンウィークももちろん試合を組んでる俺たちの草野球チーム。

2日連続で京介さんが休むなんてそうそうない話。でも二人の時間を大切に過ごしてんだな って思えばそれはそれでかえって嬉しくて。

『…あっ。』

『噂をすれば…』

璃子ちゃんを乗せた黒いワンボックスカーが駐車場に入ってきた。

『…いつまでいんのよ…』

ポツリと毒を吐く萌ちゃんはこのゴールデンウィークは誰かさんに会えると思って皆勤賞なわけで。

助手席のドアが開きピョンと璃子ちゃんが飛び降りると ユニフォームを着て準備万端な京介さんの後ろ姿をチョコチョコと追いかける。

振り返ることもなく 程よいタイミングで京介さんが後ろに手を伸ばせば

…ほらな…

二人は手を繋いで微笑みあういつもの甘い光景。

『だから諦めろって言ったろ。萌ちゃん。』

『…はぁ。』

溜め息をついて眉毛をハの字に下げて…

マネージャーとしてしっかりと働いてくれる萌ちゃんだから 本当なら力になってやりたいんだけど 惚れた相手が京介さんじゃ話は別なわけで

『諦められたらとっくに諦めてますよ… 』

二人の仲睦まじい姿を目で追いかけながら何度も溜め息を漏らす。

でも忘れちゃいけないこの娘は天下無敵の一匹狼萌ちゃんで

『先輩!おはようございます!!』

切り替えが半端なく早い萌ちゃんで

『おぉ。』

『2日も来ないから心配しましたよぉ。』

なんて璃子ちゃんが隣にいるのに京介さんの腕をワサワサ振りながら並んで歩いて。

そうなれば璃子ちゃんは溜め息混じりに俯いてスッと繋いだ手を離しスタンドへと続く階段に足を向けた。

…ったく。一匹狼恐るべし…

***

『…離せよ。』

『…え。』

一瞬時間が止まった。

私を見下ろす京介さんの目は優しく細めているけど

『…萌 離して。』

その瞳の奥は鋭く突き刺さるような視線で

『…ごめんなさい。』

掴んだ手の力を緩めると動けなくなった私の前を横切って璃子さんの後を追うように階段を登って行った。

『…璃子!』

階段の途中で呼び止め耳元で何かを囁けば 璃子さんの頬は赤く染まり微笑みあう二人。

…あんな人 すぐに居なくなっちゃうのに…

たまに帰ってきて彼女面…

邪魔だった。本当に…邪魔だった。

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