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あなたの色に染められて

第30章 大切な人



アイツが現れたのは突然だった。

7回裏。守備から戻ってくると 萌がそっと俺に近づいて耳打ちをした。

『…は?…なんでだよ。』

俺はベンチを飛び出しスタンドへと向かう。けどそこに璃子は居なくて

『美紀ちゃん。璃子は?』

『…どうしたんですか?そんなに怖い顔して』

美紀ちゃんも俺が走って来たことに目を丸くして。

『先生が…いや…璃子どこいった?』

『…さっきトイレに行くって…そろそろ戻って来るんじゃないですか?』

『…チッ…』

美紀ちゃんの言葉を信じない訳じゃなかった。

「男の人が璃子さんを連れ出しましたよ」

萌はスタンドを指さしそう言った。

昨日 親父とお袋に紹介した。やっと大切な人に出会ったって。こんなにいい娘なんだぜって。

階段を駆け降りながらスパイクを鳴らしグラウンドを後にしたそのとき

『先輩!』

腕をグッと捕まれて萌に行くてを塞がれた。

『なんだよ!』

随分と刺のある言い方だったと思う。でも萌は俺の目をじっと見つめて

『…今行ったら先輩が傷ついちゃう。』

『は?』

『…行っちゃダメ!』

俺の腰に腕を回して胸に頬を埋めて

『…萌…。』

俺が傷つくってどういうこと?見ちゃ不味いってこと?

…ってことは連れ出したヤツは

『…離せって。…萌…』

萌を俺の体から少し引き離すと潤んだ瞳で俺を見つめて

『…あんな人…先輩を置いてどっか行っちゃう人より…私のほうがずっと先輩のこと好きなのに…』

『…えっ?…んっ。』



私は璃子さんみたいに小さくない。女子の中でも少し大きめな167㎝。

だから先輩の肩越しに璃子さんがトイレから出てくるのが見えた。

…今だ…

ちょうど璃子さんが私たちに気づいたとき少しだけ背伸びをして

…キスをした。

『…おっ…お前何やってんだよ。』

肩を持たれてグッと引き離されるけど 私は回した腕を離しはしなかった。

『…先輩。』

私の視線の先には璃子さんが呆然と立っている。

『…悪い。お前と遊んでる暇はない。』

そう言って廻した腕をほどかれて 先輩が振り向いた。

『…璃子。』

『…やだ…どうしよう。…先輩ごめんなさい…』

だって 璃子さんは邪魔なんだもん。

『…璃子!!』

言い訳したってムダだよ。…先輩。

だって

…目は口ほどにものを言う…

って言うでしょ。

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