
あなたの色に染められて
第30章 大切な人
あの日ミーティングで紹介されたときから 京介さんのこと好きなんだなって…私に敵対心剥き出しだなっ思ってた。
…またか…
最初に脳裏に浮かんだのは遥香さんだった。また同じ場所で私が知らない間に京介さんを奪っていく人が現れたんだなって
今日だって打席に立つ度にベンチから一人黄色い声援を送ってた。
朝だってそう。隣にいる私のことなんて完全にスルーして。
こっちに戻ってきたときにしか顔を出せない私。でも彼女はマネージャーとしてベンチに入り一生懸命汗を流してたんだと思う。
だっていつもあの娘だけ京介さんの傍にいる。それは認めてるってこと。
私がいないときに 心を満たしてくれる人が居て当たり前だったのかもしれない。
私が知らなかっただけなのかもしれない。
萌ちゃんの腕が京介さんの背中にしっかりと廻っていた。
京介さんもそう…だと思う。肩に手なんか置いちゃって。
私よりも10㎝以上背の高い萌ちゃんとのキスシーンはやっぱり画になるなぁ。
…なんて 結構冷静にこの場面を見ていた。
振り向いた京介さんは私を見つけると…たぶん私の名前を呼んでくれた。
私は名前を呼んでもらえたから微笑んだ。きっとぎこちなかったと思うけど微笑んだ。
微笑んだけど苦しくって… さっきまで見えていた二人はいつの間にか滲んで見えた。
どこかに走り去ろうと思ったけど足が地面に吸い付いたみたいに動かない。
そのうち口にしょっぱい味が広がった。
あ~ぁ。また泣いてるって京介さんに笑われちゃうな。
『…璃子…。』
ふわりと体を包み込まれたけど 私の大好きな香りじゃない。何かが足された匂い。
抱きしめられれば抱きしめられるほど胸が苦しくなる香り。
グラウンドからは大きな歓声と溜め息が漏れる。
…逆転されちゃったか…
だって4番の京介さんがここにいるんだもん。
『…早く戻らないと負けちゃうよ。』
『…何言ってんだよ。』
…だから強く抱きしめないで。あの娘の匂いが私の心を苦しめるから。
『…勘弁してくれよ…。なんなんだよもう…。』
『…京介さん…戻って。』
京介さんの胸を押して顔を上げる。私は上手に笑っていますか?
『なんで?…アイツが来てるから?』
『…アイツ?』
『…先生に会わせてよ…来てんだろ?』
京介さんの瞳が揺れていた。
