
あなたの色に染められて
第30章 大切な人
『…先生に会わせてよ…』
『…何言ってるんですか?』
『…来てんだろ?』
答える代わりに 眉間にシワを寄せて首を傾げた。
…嵌められた…
コイツは嘘がつけるヤツじゃない。あの日 嘘をつかないって約束した日から俺にまっすぐに向きあってくれていた。
『…さっき電話はしましたけど…来ては…』
…どうして璃子を信じなかったんだろう…
天を仰ぎ自分の愚かさを笑った。
『何やってんだ俺…』
萌を問い詰めてもきっと「私の勘違いでした」って 泣きつかれんのが目に見えていた。
でも勘違いじゃ済まされない。アイツにキスをされたことには変わらない。
璃子は俺のユニフォームを右手でギュッと握りしめ俺と同じように空を見ていた。
『…あんなところ見られらた後だけど…聴いて…』
『…嫌です…。』
…そうだよな。何回 璃子をこんな目に遭わせてんだって。
『…俺はお前を忘れてしまったことがある。でも…お前にウソをついたことはない。…だよな…?』
璃子は目を閉じて俺の言葉の真意を探っているかのようだった。
『…バカだよな…。男と一緒に出ていったって言われただけで試合も投げ出してお前を追いかけるなんて。…で…あの様だよ。』
言い訳じみてる。わかっていた。でもおまえと約束したよな。嘘はつかないって。
『おまえが誰かに連れてかれるって聞いただけで俺は普通じゃいられなくなるんだな。…はじめて知ったよ。』
璃子は少し開いていた唇をグッと結んだ。
『ベンチに戻ってきたらそう言われたんだ。だから居ても立ってもいられなかった。美紀ちゃんに「すぐに戻ってくる」って言われたのに…』
『…ふぅ…』
『俺怖いんだよ…何でも出来る大人な先生にもう一度心が動いちゃうんじゃねぇかって。』
璃子の瞼が震えていた。頬を伝い続ける涙の意味は?
『…俺お子さまだから…。野球ばっかりやっておまえにワガママばっかり言うお子さまだから。』
璃子は目を開けると泣きながら俺に微笑んでくれた。
『…それだけですか?』
『…え?…』
『言いたいことはそれだけですか?』
『…璃子。』
『別れたいって…おまえはもう要らない って私に言わなくていいんですか?』
なんでかな…こんな時なのに 記憶をなくした俺に泣きながらすげぇ綺麗な笑顔で想いを告げてくれたあの笑顔を想い出した。
