あなたの色に染められて
第1章 出逢い
『どこ行くの?』
定時で上がれた私たちは美紀の車でいつもとは違う方向に走り出していた。
『直也が久しぶりのナイターだから 璃子連れて試合見においでって。』
直也さんとは美紀が2年お付き合いしている彼氏。2つ上の24歳で優しくてスポーツマンで俗に言うイケメンで市役所で働いてる。
『試合?』
『そう。草野球の試合。高校時代のOBが集まるチームだから強いんだよ~。』
そういえば直也さんは高校球児だったって言ってたっけ。
『え?私まだ直也さんと数えるほどしか会ったことないよ?』
『たまには付き合ってよ。あのね、直也のプレーしてるところすごく格好いいの!』
確かに 仕事を始めてから病院と家との往復で遊びになんて行ってなかった。
『じゃあ…傍にいてよね?』
実は私は男の人が少し苦手だったりする。
『もちろんよ。変な虫が付きそうになったら直也に撃退してもらうから。』
『お願いだからね!絶対よ!』
微笑む美紀の横顔の先にナイターのライトが目に入った。
*
球場に着くと試合は始まっていた。
『どこだぁ?…あっいたいた!』
グラウンドへの入口からフェンス越しに直也さんを探すと
『美紀!』
直也さんが気づいて金網のドアを開けてベンチへと案内してくれた。
『こんばんわ。璃子ちゃん急だったのに悪かったね。』
『いえ…暇でしたし…あの…その…誘ってもらってありがとうございました。』
私は 空いている後ろのベンチに腰を下ろすとひとつ息を吐きグラウンドに目を向けた。
『すごい…』
そこには野球のルールを知らない私が見てもわかるほど上手な人ばかり
『ウフフ…なんか楽しそう。』
みんな少年のように白球を追いかけていて私の頬も自然と緩んだ。
でもひとつ思うこと。
…なんで 私も呼ばれたんだろ?
考えたってわかる訳じゃないけれど ボールの捕球音や選手の声がとても心地よくって
…あっ、打った!
やっぱり私は野球好きのお父さんの子だな…なんて幼い頃の記憶を思い出しながら ぼんやりとグラウンドを眺めていると
『こんばんわ 野球好き?』
『…え。』
私の隣にスッと座って私の顔を覗くのは
…あれ?
どこかで会ったことがあってどこかで聞いたことのある声の人
『…は…ぃ。』
『野球好きかぁ…良かった。』
それはすごく笑顔の素敵な人だった。