あなたの色に染められて
第31章 分岐点
『…綺麗だなぁ』
コーヒーカップを持ったまま ベランダに足を運んだ。
目の前に広がるのは茜色に染まる夕焼け空。
『こっちはこんなに良いお天気だったのに…』
日本は梅雨の真っ只中。大人の野球少年はこの季節が大嫌い。
でも電話を切る瞬間に聴こえた京介さんの大きな溜め息は練習が中止になったからではない。
『…わかってるよ…』
いつまでたってもたっちゃんに聞かない私に堪忍袋の緒も切れ始めていた。
『私だってちゃんとわかってるんだって…』
グラウンドで私が京介さんにハッキリと想いを告げて以来 お互い今まで我慢していたことを口にするようになっていた。
…早く戻ってこいよ…
…いつまで待てば良いの?…
今まで私たちのなかでタブーとされていた言葉たちを伝えられる。それは私たちが一歩前進した証し。
でもなぁ…
***
ロスに戻ってサラが私を見つけるなり 興奮して話た内容が私を困らせる原因な訳で
「Dr.達哉がニューヨーク大学の循環器専門医になるんだって?おめでとう!でも 璃子までニューヨークに行ってしまうのは寂しいわ。」
寝耳に水だった。
私たちが留守の間にボスから親友のサラならと内緒で耳打ちしてくれたとのこと。
私も行くのかとサラに尋ねれば 医局でも内々しか知らない話だけどと前置きをして
「助手をつれて来るのが向こうの条件だったみたいだけど…それなら璃子がいますって。」
たっちゃんの実力から見れば誘いがあるのは当然だと思う。
でも…私も?
私も一緒って条件が出てるなんて…
「私が断ってたら?」
「話は無かったことになるんじゃない?。別の助手を見つければいいだろうけど…Dr.達哉は璃子じゃないと無理でしょ。」
***
そんな話を聞いてもう1ヶ月。
たったゃんは何も話してくれない。
黙ってその時を待っていたけど これ以上は京介さんを待たせられない。
『あ~ぁ。日本に帰りたいなぁ…』
球場の夕日を思い出しながら 残りのコーヒーを飲み干して一人溜め息をつく私。
『…ギュッてしてもらいたいなぁ…』
逢いたい気持ちは募るばかりで。
『…チューも…はぁ…』
正式発表が出る前に聞かなきゃ。そして 帰りたいってちゃんと伝えてみよう。
『…頑張るからね…京介さん。』
繋がってるって証しの指輪に唇を寄せてキスを落とした。