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あなたの色に染められて

第32章 幸せのおすそわけ



『お願い たっちゃん!』

美紀からの電話のあとリビングに居たたっちゃんに早速休暇のお願いをした。

ソファーに座るたっちゃんに両手を合わせ拝むように何度も頭を下げる私。

『う~ん…20日から一週間だろ…。キツいよなぁ。』

『ズルい…クリスマス休暇はドーンとくれるって言ったじゃん。』

カレンダーをチラチラ見ながらなかなか首を縦に振らないたっちゃんの理由はわかってはいた。

『だって マリアと二人じゃ俺 厳しいって。』

『もうそんなこと言わないでよぉ…』

私の後任の募集をかけて5人の中から選ばれた日系人のマリアは日本語も少し話せて医療秘書経験者ということで即決した。

でも この彼女根っからのアメリカ人。仕事以外は一切動かないというポリシーを持っていて

『マリアといたら俺全部やんなきゃいけないの。コーヒー一杯淹れてくれないんだぜ?』

『今まで私に甘えすぎてたんですよ。これを機にしっかりと自立してください!』

『…ヤダ…。』

35歳を優に越える大人が口を尖らせ駄々を捏ねる。

『そんなこと言うなら今すぐ辞表書きますよ。』

最後の一手を私が出せば

『わかったよ。やりゃいいんだろやりゃ…』

仕方なく首を縦に振るたっちゃんは大きなため息をつく。

『じゃ決定ね。マリアにも伝えておきますから。』

完全勝利の私はエプロンを着けながらキッチンに向かう。

こっちの新しいメイドさんにも料理をお願いしてみたけど 出てくる料理はやっぱりヘビー級。

なので ここでも私が作ることになったんだけど

『たっちゃんほら始めるよ。』

料理を少しでも作れるようにと時間が合えばたっちゃんとキッチンに立つ。

『今日は何作んの?』

『しょうが焼き。この間食べたいっていってたでしょ?』

私がまとめたレシピを見ながらたっちゃんは包丁を握る。

『あぁ…キャベツの千切り面倒くさい。』

『じゃ お味噌汁の大根を切って。』

『どっちも面倒くせぇ…。』

メス裁きはピカイチだとオペナースは言うけれど 包丁だとどうも上手くいかないようで

『お腹減ってるんでしょ?だったら早く切って。』

『絶対に璃子が切った方が早いのに。』

『ほら。口を動かさないで手を動かすの。』

『あぁ うるせぇ…』

3月にたっちゃんの助手を卒業する私。少しづつだけど準備を始めていた。

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