あなたの色に染められて
第32章 幸せのおすそわけ
『じゃ…ママ行ってくるね。』
『ハイハイ 京介くんよろしくね。いってらっしゃい。』
帰ってきたあの日 空港から自宅に着いたのはもう日付けも変わる頃だった。
本当は自宅にも帰らずそのまま京介さんと過ごしたかったけれど
「明日はガッツリ仕事してくるから 家族でのんびり過ごせ。」
と長旅で疲れた私を気遣ってくれたので昨日は久しぶりにのんびり家族と過ごした。
そして今日からはやっと京介さんと二人きりで過ごせる。
『ちゃんと暖かい格好してきたか?』
『もちろん!カイロもたくさん持ってきましたよ。』
走り出した車の中 私の右手は大好きな京介さんの左手に包まれて
『風邪引くなよ。予定はぎっしりなんだから。』
『…はい…。』
半年ぶりに一緒に過ごせることがなんだか急に恥ずかしくなった。
それなのに京介さんは全然いつもと変わらずに
『…んっ…。』
信号が赤で止まる度に私の唇を奪い
『…球納め行くのやめよっか。』
イタズラに微笑みながら私を困らせる。
だから 私の胸の鼓動は大きくなるばかり。
*****
駐車場でフリースの上から俺のユニホームをワンピースのように羽織るとニッコリと微笑む璃子。
『チビ…。』
『…どうせチビですよ。』
俺のブカブカのユニホームと帽子を被って上目使いで睨まれたって俺からしたらただ“愛しい”それだけで
『よし。まずは監督に挨拶だな。』
『はい!』
手を伸ばせば 自然と絡む指先にギュッと力を込めて
去年は佑樹と二人寂しく裏方やってたな…何て思い出しながらベンチに足を向ける。
『あ~緊張した。』
一年に一度の儀式…今も現役バリバリの監督にビシッと挨拶をして 魔女たちが集まる豚汁組に璃子を連れていく。
『こんにちわ!お疲れさまです!』
璃子が顔を出せば魔女たちは笑顔で迎え入れ
『璃子ネギ切って!ネギ!』
『はい!』
まだここに参加できる資格もないのに何の違和感もなくネギを刻みはじめた。
『ケンタ。キャッチボールすんぞ。』
『え~。きょうすけと~?』
こいつを璃子の傍に置いとくとろくなことしないから。
『6回には迎えに来るから。』
『は~い!』
同じ空間に居ながら別々の場所にいる。
それはここでの俺たちのスタイルで
魔女のなかで微笑むこいつは俺の女だっていう証しそのものだった。