あなたの色に染められて
第32章 幸せのおすそわけ
『じゃ…京介さん あんまり呑みすぎないで下さいね。』
『わかってる…おやすみ…。』
幸乃さんと璃子たち女同士は枕を並べて寝ることになった。
『おいケンタ!男はこっちだぞ!』
『オレ りこちゃんとねるんだもんねぇだ。』
舌を出して勝ち誇る可愛くないケンタ。
『はぁ?…おまえなぁ…』
…いつまでコイツは璃子にベタベタするつもりなんだよ…
『もぅ…京介さん。いい加減にしてください!』
ガキ相手に本気になる俺もどうかと思うけど。
『では 皆さんおやすみなさ~い。』
璃子は勝ち誇ったケンタと手を繋いで部屋を後にした。
『なんだよ…ケンタケンタって。』
『ハハッ!なに小学生にヤキモチ妬いてんだよ。』
『うるせぇ。佑樹!』
『だから言ったろ?俺の息子なんだから気を付けろって。』
…面白くねぇ…。
『ヤキモチ妬き。』
『だから違うって!』
わかっちゃいるけど胸クソが悪い。
『そんなに惚れてんなら早くプロポーズしろよ。』
『そうだよ いつまで待たせんの?』
待たせる?…それは考えもしない言葉だった。
『俺…待たせてんの?』
そう言うと二人は溜め息をついて
『おまえさぁ…これからの二人のコトとか璃子ちゃんと話してねぇだろ。』
『…えっ…。』
二人は溜め息混じりに首を横に振りながら
『…やっぱり…。幸乃から聞いたけど 仕事辞めて実家を継ぐって時も なんの話もしてなかったんだろ?不安だったらしいぞ。』
『…それ 璃子が言ってたんですか?…』
『相変わらずニコニコしながらだったみたいだけどな…。幸乃曰く 女は言葉で伝えないとすげぇ不安らしいから。』
『…不安か…。』
…そう言えばアイツは自分のことを後回しにするタイプ…
『でも…俺だって璃子とのことはちゃんと考えてますから。』
俺の空のグラスに長谷川さんがビールを注ぎながらゆっくりと話はじめた。
『俺たちはさ 京介はもちろんだけど…璃子ちゃんには本当に幸せになってもらいたいんだよ。』
それはなんだかすごく重い言葉で
『おまえの知らない璃子ちゃんを俺らは見てたから。』
たぶんだけど…これが記憶を失って元に戻る最後の扉なんだとふと思った。
『…俺の知らない璃子?…』
だって 長谷川さんたちの笑顔がすげぇ優しかったから。