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あなたの色に染められて

第33章 幸せのカタチ


『浴衣でフレンチなんて…。』

『なかなか粋だろ?』

部屋の奥にあるダイニングスペースにクリスマスディナーが用意された。

大きな窓の外には月明かりに照らされた白樺の針葉樹がイルミネーションの煌めきと相成って幻想的な雰囲気を作り上げていた。

シャンパングラスはいくつものランタンの揺らめく炎のなかでキラキラと弾けて

『こういうときは …メリークリスマスでいいのか?』

『なんだかその言い方キザですよ。』

『うるさい…ほら…いいから持て。』

グラスを手に取り 微笑んで

『…メリークリスマス。』

…チンっ…


前菜から色鮮やかで 目も舌も楽しませてくれるお料理が二人の時間をより充実したものにしてくれる。

『…贅沢な時間ですね…。』

『そうだな。余計な物がないって贅沢なんだな。』

テレビも電気もないこの部屋。いくつものランタンの灯りだけが私たちを照らし出していた。

『おまえさ 日本に帰ったらまたあの病院に戻んの?』

『…ううん…それはできないの。ニューヨークの大学病院に移つるときにもう退職してるから。』

『じゃあ 帰ってきてからの働き口は?』

『…まだ何も。帰ったら職安でも行こうかなって。それに…ママとのんびり旅行にでも行きたいねって。』

アメリカでの生活は本当に毎日ハードで 少しゆっくりしてもいいかなって思ってた。

『…あのさ…もし…もしだぞ。お前の気が向いたらでいいんだけど…。』

『…はい?』

『兄貴とお袋がさぁ…あのときの璃子の語学力に惚れ込んでさ。うちの酒蔵を手伝ってくれないかって…うるせぇんだよ。』

『私が?』

『…あぁ。』

『酒蔵のお手伝いを?』

まだお付き合いをしてるだけなのに京介さんのご実家でお世話になるなんて…。さすがにそれは…。

『…あの…嬉しいですよ。英語も活用できるなら是非にでもって。…でも…私みたいなのが出しゃばるのってあんまりその…。』

京介さんは微笑むと浴衣の胸の隙間から細長い箱を取り出し私の前にそっと置いた。

『はい サンタさんからのクリスマスプレゼント…。』

その見覚えのあるブルー包み紙が私の前に登場するのは3度目で。

『…え。』

『…開けてみ?』

テーブルに肘をつき 私の瞳を覗き込む京介さんはやっぱり恋愛上級者。

私のことなんてすべてお見通しだった。

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