テキストサイズ

あなたの色に染められて

第5章 カレー曜日


『はい着きました。』

到着したのは駅から程近い5階建てのマンション

彼の部屋はその最上階の角部屋だった。

カチャ

『どーぞ。』

『…おじゃまします。』

男の人の家に上がるのが始めての私は玄関を覗くと急に胸がドキドキと鳴り始めた。

『ほら突っ立ってないで。』

買い物袋を下げた京介さんがリビングの扉を器用に開けると

想像していたよりも片付いている部屋が見えた。

短い廊下を抜けリビングに足をいれるとそこにはキッチンと3人掛けぐらいの大きなソファーとテーブルがあり

『荷物こっちの部屋に置いとくから。』

『あ、ありがとうございます。』

荷物がおかれた部屋には独り暮らしにしては大きなベッドが置かれていた。

『綺麗にしてるんですね。』

『いやいや、璃子のご両親が法事だからって昨日必死で掃除したの。』

彼はボスっとソファに座り立ったままの私を見上げる。

焦げ茶色の瞳に引き込まれそうになったその時不意に気付く

京介さんの部屋に二人でいるってことは…

『カ、カレー作らないと!』

そういうこと。

『まだ早くねぇか?』

『ほら、煮込まなきゃ美味しくなりませんし。…エプロン取ってきます。』

私は逃げるように寝室へと足を向けた。

この部屋に入ってから胸のドキドキは消えることはない。

なんとか心を沈めようとエプロンを羽織って大きく深呼吸すると

『あ、そう言うことだよね。』

今度はもっと私の心を困らせる大きなベットが目に入った。

今夜ここで京介さんと…

私はさっきよりも大きく鳴り始めた鼓動を抑えるように大きく深呼吸した。

この部屋で私は今日はじめてを捧げるのかもしれない。

可笑しいよね。

だってキスをしたのだって1か月前。

それも私にとってファーストキスだった。

美紀に連れられて球場を覗いてからまだ全然日にちは経っていないのに

今の私の生活はあの日から180度違う世界をみている。

好きな人ができて気持ちが通じあって

その好きな人のために料理を振る舞う。

そして今日 私を彼色に染めてもらう。

みんなはもうとっくに経験してるだろうけど いつか愛する人が出来るその日までと 私は胸に決めていた。

『よし!とりあえず美味しいカレーを作ろう。』

エプロンの紐をギュッと縛り私はキッチンへと足を向けた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ