
あなたの色に染められて
第34章 キミを想う
『ちょ…ちょっと待ってくださいよ!正気ですか?』
俺が京介さんから衝撃的な話を聞いたのはGWも終わって初夏の風が吹いたころだった。
『リコちゃんって…美紀と同じ病院で働き始めたリコちゃんですよね?』
誰もいない3塁側のベンチに呼び出され告げられたのは美紀の友達を紹介しろという 女にまったく不自由していない京介さんからで
『いいから おまえは黙ってリコちゃんを連れて来ればいいんだよ。』
なんて ここぞとばかりに先輩風をすごい勢いで吹かせちゃって。
『美紀に連れてくるように頼むのは構わないですよ。でも…。』
その彼女はいつも京介さんが相手にしてるような恋愛マスターじゃない。
俺は口にグローブを当てて 目の前でキャッチボールする諸先輩方に聞かれまいと小さな声で
『俺 彼女のこと話しましたよね?男と付き合ったことがないって… 一番面倒くさいタイプだって…。』
『…だから?』
『ハァ…わかってます?男と絡んだことがないってことは…処女ですよ?…処女。遊びじゃ無理ですって…。』
『…誰が遊びだって言った?』
一瞬 ジロリと睨み付け 俺の肩に腕を回して今度は不気味なほどの優しい声で
『直也…俺ね…マジで惚れたんだよ。』
それは天と地がひっくり返るほどの衝撃発言で
『勘弁してくださいよ。写メ見て一目惚れして 偶然の再会に心ときめかせちゃうなんて…らしくないっすよ…。』
そう 京介さんの口から「女に惚れた」なんてフレーズが出るなんて思ってもみなくって。
『あのな直也…。らしくねぇからお前に頼んでんだよ。一晩の女ならお前なんか通さないで誘ってそのままヤりゃいいだけだろ。…な?』
『まぁ…そうですけど…。それにしてもあの子は…ハードルが高いって言うか何て言うか…。』
他の子なら100%モノにできると思う。でも 彼女はさすがの京介さんも手こずるんじゃないかって
『ダメなら潔く諦めるよ。おまえの大事な彼女に迷惑かけるわけにもいかねぇし…。ただな…。』
京介さんは澄んだ5月の空を見上げて 優しい笑顔で
『あの子だけは本気で狙ってみたいんだよ。』
それは今まで見たこともない優しい笑顔で
『わかりました。来週の土曜ですね。美紀に連絡しておきます。』
俺の首をすんなりと縦に振らせるほどの穏やかな笑顔で
何かが動き出した…そう感じた笑顔だった。
