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あなたの色に染められて

第34章 キミを想う


『はぁ?おまえ何言ってんの?』

電話口の向こうの女はまったく何を考えているのやら。

『一週間遅らせてまで行くところなわけ?』

だって先週だよな?「来週に帰れることになったの!」なんて時差を忘れて夜中に電話してきたの

『イタリア?…知らねぇよ。』

先生の秘書だの何だの言って 散々おまえ世界を回ったろって。

『別に怒っちゃいねぇけどさぁ。』

こいつは俺がどんだけその日を楽しみにしていたのかわかっちゃいない様子で

『…でもさぁ。』

先生との最後の学会だから なんておまえそっちに未練タラタラなんじゃねぇのって

真っ青な春の風が吹きはじめた空を見上げて

『わかったよ。じゃあ 一週間遅れるのな。』

まぁ あんなに待てたんだから今さら一週間ごときでグチグチ言うのもな。

『土産なんていらねぇよ。』

おまえがここに戻ってきてくれればそれでいいって。

『あぁ。じゃあ 飛行機決まったら連絡して。…いいよ。先生いたって…。』

あと2週間か…。

やっと 俺たちあの日に戻れるんだって。

『はいよ。じゃあな。』

おまえが夕陽を眺めていたあのスタンドで一人グラウンドを眺めて

…しょうがねぇか…。

あいつが帰ってきたらとりあえず説教だな。なんて一人で頬を緩ませていた 太陽がてっぺんにある時間。

『…京介。』

…は?

聞き覚えのある 冷めたその口調…。

『久しぶりね。元気にしてた?』

振り向けば立ってるだけで画になる女。

そう 揉めに揉めて別れた女。

『…遥香…。』

髪をかきあげて微笑む元カノが一人。

『まだ付き合ってたんだ。』

その冷たい微笑みに璃子は苦しめられてたな…。なんて思い出したりして

『なんだよ。』

『別にいいじゃない。何でも知ってる仲なんだし。』

相変わらず図々しい遥香は俺の横に腰を掛けて

『はい。寒いでしょ?』

俺がいつも飲んでる缶コーヒーを顔の前に差し出して

…今日はついてねぇな…。

『…いらねぇ。』

『残念でした。もう開けてあるから。』

変なところに気が利く女。

無言で受け取り目を閉じた。

『あのね 私…大阪に引っ越すの。』

『…ふーん。』

そんなのどうでもいい話。悪いけどおまえとはもう絡むのもごめんだって

立ち上がろうとしたその時

『…結婚するんだ。』

それはずいぶんと優しい声だった。

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