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あなたの色に染められて

第35章 幸せのタネ


『あぁ。疲れたぁ。』

『お疲れ お疲れ。』

京介さんの車に乗り込んで駅までの短いドライブ。

『どう初日は?』

『もう覚えることがいっぱいで。あっという間に終業時間でしたよ。』

朝から挨拶回りに 酒造行程の確認と新しいお店の打合せ。

やっと時差ボケが解消した私の体にはハードスケジュールだった。

『親父も兄貴も随分と張り切ってたもんな。』

そっと繋がれる右手は私の体を労うようなぬくもりが溢れていた。

『でも 驚いちゃいました。京介さんが英会話教室に行ってるなんて。…いつからですか?』

『ん?…GW明け。おまえ売店で活躍してたの見てさ。 少しは役に立つかなぁって。』

仕事に慣れるために野球も控えて頑張ってるとは聞いてはいたけど まさか英会話まで習っていたなんて

『でも もう辞めるよ。』

『どうして?もったいない。』

『これからは専属で璃子先生に手取り足取り教えてもらうから。』

京介さんは繋いだ手にキスを落とし 意味深に笑って

『なんか変な意味に聴こえますけど…』

『そりゃ変な意味も含めてますから。』

『…バカ。』

手を伸ばせば京介さんに触れられて 同じ空間で同じ空気を吸い込んで 目が合えば微笑みあって

そんな他愛も無いことがこれから毎日続くんだと思うとすごく嬉しくて

『やべぇ。やりたくなってきた。』

『…え…。』

車の通りも疎らな大通り手前の道路の脇に車を停めると

『…璃子。』

繋いだ手を引き寄せて

『…んっ。』

ファザードランプがカチカチと鳴り響く社内で 愛する人の唇に酔いしれて

『金曜日泊まりに来いよ。』

『…うん。』

久しぶりに彼の腕の中で朝を迎えられるっていうこと。

『なに照れてんだよ。』

『…だって。』

もう 我慢しなくていいんだよね。

『…可愛いな。』

俯く私の顎をクイッと持ち上げられると大好きな甘いキスを落としてくれて

『金曜日は覚悟しておけよ。』



駅までのほんの10分の幸せな時間。

ずっと待ち望んでいた二人だけの時間。

『じゃ また明日。』

『ありがとうございました。』

また明日会えるんだもんね。

だから笑顔で手を振れる。

『バイバイ。』

『バイバイ。』

車が見えなくなるまで見送って 頬を緩めながら階段を駆け登った。

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