あなたの色に染められて
第36章 mistake
『もしもし…璃子!?』
こんなに切羽詰まったコイツの声を聞くのははじめてだった。
「…悪ぃ…俺。」
『…なんだ…長谷川さんかぁ。』
舌打ちでも聞こえてきそうなほど 俺の声にガッカリした京介。
「璃子ちゃんがどうした?」
『…イヤ…あの…。』
歯切れの悪い答え。いつもはクールに決めてるのに璃子ちゃんが絡むとコイツはいつもそう モード変換機能を使いやがる。
「なんだよ。璃子ちゃんがどうかしたのかって?」
俺も意地悪だよな。京介は今 俺の相手なんかしてる場合じゃないだろうに
『…いや…ちょっと…璃子からの電話待ってて…。』
たった一人の女のせいでここまで変われる男もそうはいないだろうな。
「バーカ。愛しい彼女が行方不明で困ってんだろ?」
『…え…。』
「今 俺ん家で泣いてるよ。“京介さんが浮気してるぅ”ってな…。」
『…はぁ?…』
そりゃそうだよな。たかがキャバクラで泣かれたらたまったもんじゃない。
でもな。相手は免疫も何もない純真無垢な可愛い可愛い京介の女。
キャバクラだってソープだって全部一緒ぐらいの大人の男の世界に無知な璃子ちゃんなわけで。
『今から迎えに行きます!』
「ダメだってよ。幸乃が今日一日泊まらせて明日球場に連れてくからって。一晩よーく頭冷やしなさいってさ。」
女って複数になると俄然強くなる生き物のようで。
『…マジですかぁ。』
「今日久しぶりに二人で過ごせるから楽しみにしてたのにって。いっぱいご飯作って待ってたのにって。そう言って泣いてる。」
『…すいません。…迷惑かけて。』
ベランダから部屋を覗くと璃子ちゃんは体育座りをしながらまだ涙を流してて
「さっさとプロポーズしないからこういうことになるんでしょ?って 幸乃が怒ってる。」
電話の向こうのおまえもきっと意味もなく反省してんだろうな。
「…おまえさ 最近ツイてないよな。プロポーズの件と言い 今回の事と言い。」
俺はコイツに同情するしかない。空回りって言うの?うまく行かないときってあるんだよなぁ。
『俺…接待で行ったキャバクラの名刺捨て忘れただけですよ?…マジでツイてないっすよ。』
でもさ 俺たち おまえらが喧嘩するのが嬉しかったりもして。
「じゃあな。明日頑張れよ。」
『…ちょっと…長谷川さーん!』
喧嘩するほど仲が良いんだよな。