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あなたの色に染められて

第36章 mistake


『京介くんなんだって?』

『相当堪えてると思うよ。らしくない か細い声だったから。』

『自業自得よ。証拠を残して帰ってくるなんて。ねぇ?璃子ちゃん。』

名刺を見つけたあと私は何も考えずに京介さんのマンションを後にした。

小雨が降る肌寒い4月の夜空。はじめて歩く駅までの道は遠くて寒くて。

電車に乗ってふと気付く。パパもママも急に帰れば心配する。

…お家には帰れないか…

美紀のお家にも…まだ赤ちゃんが生まれたばかりで私の相手なんかしてる余裕はないよね。

飛び出したはいいけれど行く宛てのない私。

~♪

バックの中で震えるスマホを確認するとそれは幸乃さん。

“明日久しぶりに球場に顔出すから”

なんて普通のLINE。

『もしもし…幸乃さ…ううっ…。』

気が付いたら電車を降りて幸乃さんに助けを求めていた。

幸乃さんは車でわざわざ最寄り駅まで迎えに来てくれて 走らせる車中で涙が止まらない私の話を聞いてくれた。

『今日はうちに泊まりな。ゆっくり話聞いてあげるから。』

本当に幸乃さんは優しくて頼りになる素敵な女性で

『よし!今日は愚痴大会だ!呑むよ~!』

『ううっ…幸乃さ~ん。』

今まで美紀にも言えなかった本心っていうのかな 口に出したらいけないと思ってたことも全部吐き出したと思う。

『私が少し男の人と喋るだけでスゴく怒るのに 自分はキャバクラですよ?』

『そうだそうだ!アイツさぁ “璃子は俺のモンだぁ”って独占してるくせに最後の詰めが甘いんだよね。』

お酒のせいもあって話は徐々にエスカレートしていき 禁断の夜のお話まで

『そうなんですよ!エッチだってもう無理って言ってるのにイジメられるし。』

『あ~わかるぅ。うちのパパもそう。次の日体がヤバイんだよねぇ。』

『幸乃さんも?』

『最近は子供たちもいるからあんまりだけど…。でもさ たまに時間をかけてくれると嬉しいよ。愛されてるって証拠じゃない?』

『…証拠?』

エッチな話なのに真面目な話。

『男の人なんて終わらせようと思えば簡単に終わらせられるでしょ?でも時間をかけて愛してくれると肌が重なる分だけ幸せだなぁって。』

『…ぬくもりって言うのかな。あったかいんですよね。』

たかがキャバクラの名刺。されどキャバクラの名刺。

大人の階段は長くて急な階段みたい。

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