あなたの色に染められて
第36章 mistake
翌日 集合時間よりもだいぶ前から球場の駐車場でスタンバってた所に 長谷川さんの運転する1BOXカーが入ってきた。
『…昨日は璃子が世話になりました。』
本当に幸乃さんには頭が上がらない。
『別にお世話なんかしてないわよ。…浮気くん。』
…え…なに?…なんなの?…
幸乃さんは腕を組み車に寄り掛かって不気味なほどの笑顔で俺を見上げる。
『だから…浮気じゃないって…接待だって。』
『接待ねぇ…。璃子ちゃんが同じことしたら京介くん笑っていられるんだぁ?普通におかえり~ なんて言えるように成長したんだぁ?』
『…もう…幸乃さん。』
いつもより優しい声色にのせて刺のある言葉を紡いでいく幸乃さん。こりゃ一筋縄ではいかないご様子。
『京介くんの中では璃子ちゃんは何があったって我慢してくれる都合のいい彼女なんだもんねぇ。』
『…はぁ?…』
この間プロポーズし損ねた時はギャンギャンうるさかったけど こんなに笑顔いっぱいで問いただされるのはもうある意味恐怖でしかなくて。
『大事にできないなら別れればいいじゃん。』
とびきりの笑顔で一番恐れている言葉を口にするのって
『…最低。』
俺が思ってたよりも事態は深刻?たかが名刺を捨て忘れただけだろ?
『…頼むよ…。』
座り込んで頭を抱える俺って本当にツメが甘い。
『幸乃さん勘弁してよ…璃子が納得してくれるまで話すから。本当に浮気じゃないんだよ。接待で…。』
『接待ってすごく都合のいい言葉よねぇ。』
『…だからぁ…。』
“男と女は違う生き物” この状況ってきっとそういうこと。
立ち上がる気力もない俺。
『…幸乃。あとは二人に任せたら?』
振り向くと長谷川さんの横に肩を震わせながら俯く璃子が立っていて。
『璃子ちゃん。今思ってること全部吐き出すんだよ。昨日の夜みたいにね。』
『…。』
長谷川さんの優しい言葉に璃子は頷いて
『ちゃんと璃子ちゃんの話聞けよ。』
『泣かしたらオレがぶっとばすからな!』
どうやらここには俺の味方はいない様子。
『…璃子。俺の車行こ?』
顔を覗きこむけど璃子は俯いたまま首を横に振る。
『…悪かったよ。捨てておかなくて。』
いつものように璃子の手を握ろうとしたけど
『…やめて…。』
璃子は溢れそうな涙をグッと堪えて俺を睨み上げた。
空は蒼く澄んでいた。