あなたの色に染められて
第38章 サプライズ
『うわぁ…。』
佑樹さんのサインに頷き 長い腕から真っ直ぐにボールを放つその姿にブランクは感じられなかった。
『璃子ちゃん目がハート。』
キャッチャーミッドに吸い込まれるボールの捕球音はバシッと重く響き渡り
『かっこいい…。』
回りの人のことなど忘れて思わず心の声が漏れてしまうほど。
長身から繰り出される白球はバッターを惑わせて 相手チームのスコアボードに0の並べて
『京介の言う通りだ。璃子ちゃんは驚いたり感動したりすると口が開きっぱなしになるんだね。』
『あ…いや…その…。』
私はすぐに口を真一文字に閉じて頬を真っ赤に染めて
ここのところ仕事が忙しく月に一度程度しかこのグラウンドに足を運べなかった。
だから せめてお誕生日ぐらい大好きな野球に染まってほしくて無理を承知でいつものメンバーにお願いをした。
『京介 昔の血が騒いでんじゃねぇの?』
そうだよね。あれだけ投げれるなら何度も当番するチャンスはあったはずなのに
『長谷川さん。どうして京介さんはピッチャーやらなかったんですか?』
相手チームだってそんなに弱いわけではない。宝の持ち腐れっていうのかな もっとたくさん投げれば良かったのになんて思うほど圧巻のピッチング。
『あいつ高1の冬に肘壊してさ。野球を長く続けるために外野に転向したんだよ。』
チームの勝敗を背負い一球に思いを込めるその姿の影にはいろんな想いがあって
『アイツが投げてたら絶対に甲子園行けてたよ。』
きっとすごく悔しい過去があって
『でもさ その経験があったからアイツはあの代のキャプテンを任せられたんだよ。』
その辛い過去さえも自分のバネにできる筋の1本通った私の彼。
『璃子!麦茶~!』
『ハイハイ。』
この回も3人で抑えた京介さんはベンチに戻ると私の横に座って
『惚れ直した?』
マウンドに立っているときとは別人の柔らかい笑顔で私の顔を覗き込んで
『まだです。』
『またぁ…本当はもうメロメロのくせにぃ。』
知ってるなら聞かないでよ…。
好きって気持ちじゃもう追い付かないぐらいなんだから。
『勝ったら ひとつ言うこと聞くって約束忘れんなよ。』
『勝ったらですよ?』
グローブ片手にマウンドに向かうその姿は私の一番好きな彼の姿。
今の私ならひとつなんて言わないでいくつでも聞いちゃうよ?