
あなたの色に染められて
第38章 サプライズ
『今日はありがとうございました!』
球場の駐車場でこの日のために動いてくれたチー ムメイト一人一人に手を振って頭を下げて見送りながら 夕方には用事があると言っていた京介さんを駐車場で待つけど
全くいつまで待たせるのやら…。
駐車場には京介さんの車だけがポツンと停まっていて。
『開けますよぉ。』
更衣室を覗いても
『あれ?』
管理事務所を覗いても
『あれれ?』
どこにも姿は見えなくて。
早く用事を済ませて二人でお祝いしたいのに
『もう どこいっちゃったのぉ。』
急ぎ足で京介さんを探す 彼の誕生日を祝う気満々な私。
最後にもう誰もいないはずのグラウンドを覗いてみると
『やだ…まだユニホーム着たままじゃない。』
マウンドに一人背を向けて立っていて
『京介さーん!遅れちゃいますよぉ!』
金網越しに声をかけてると京介さんは振り返り 手招きなんかしちゃって
『もう…予定があるんじゃないんですか!?』
私はブツブツと問いかけながら京介さんの元に歩んで行くと グローブをしたままの手で頭をガシッと捕まれて
『予定はね…ここ。』
『…え?』
『17時からこの球場借りた。』
『…へ?』
用事ってこの球場?これから二人でお祝いしようって話してたよね?
戸惑う私をよそに京介さんはニヤリと笑って
『ひとつお願い聞いてもらえるんだよな?』
相手チームを見事に0点で抑えた京介さん。勝ったらひとつお願い聞くって試合前に約束したけど
『…まぁ。』
私が渋々首を縦に振るとグローブをスッと私に差し出して
『キャッチボールしようぜ。』
『私…と?』
初心者の私とキャッチボール?
『いいから。左手にグローブ付けて…おまえそのまま動くなよ』
京介さんはマウンドに私を残してホームベースの方に下がっていく。
『胸の前でしっかりかまえて ボールよく見てろよ…いくぞー!』
『え~!』
緩く放物線を描く白球は胸の前にかまえたそこにストンと落ちて
『…凄い。』
私は1ミリも動いていないのに ボールはちゃんとグローブに収まって
『行きまーす!』
今度は私が京介さんのグローブ目掛けて
『エイっ!』
真っ正面に放たれたわけじゃないけど簡単に私のボールを掴んで
『ナイスボール!』
夕陽を背にした私たちは茜空の下で白球を追いかけた。
