テキストサイズ

あなたの色に染められて

第38章 サプライズ


『楽しい?』

『うん!スッゴく!』

私が投げたボールはどこに飛んでいってしまうかわからないヘナチョコボールだけど

『ねぇ!私意外と上手じゃないですか?』

ホームベースよりもかなり前に立って私のボールを京介さんが手を伸ばして笑顔で補球してくれるから

『ハイハイ…大変お上手ですよ。』

なんだか 凄く上手なんじゃないかって調子に乗る私。

京介さんが投げる緩い球は迷うことなく私の懐に届いて 受ける度にグローブ越しに微かに残る手のひらの痺れが心地よくて

『行きますよー!』

京介さんのたったひとつのお願いなのに足を軽やかに跳ね上げ 楽しんでるのは完璧に私の方で

『あっ!』

『バカ!…どこ投げてんだよ!』

彼が汗をキラリと輝かせながら投げたこのマウンドでエース気取りで投げちゃって

『楽しぃ!京介さん早く早く~!』

絶対に明日は筋肉痛に悩まされるだろう なんて思いながら右手をブンブン廻して

『ったく…今度暴投したらおまえが取りに行けよ!』

『え~!』

この広い球場を独占して京介さんの好きな世界に浸って

…楽しめればいいか…。

なんて 都合よく解釈しちゃって。

『よしお仕置きに…行くぞ!』

ボールを拾ったホームベースの後ろから

『ヤダ!…ちょっと…待って!』

たぶん ほんの少し急速が上がっただけなのに

『…ワァ!』

目を背け見事にボールを逸らし

『もう!そんなボール取れませんよぉ!』

ちょっと逸れただけなのに 頬を膨らませ唇を尖らせながら遥か彼方 外野の方まで転がるボールを追いかけて

『あんな球無理です。』

ブーブー文句を言いながらマウンドに戻ると

『…璃子…。』

『…え。』

フワリと抱きしめられて吐息を耳で感じて

『どうしたの?』

そう聞いてしまうほど それはそれは優しく包まれて

『マウンドには野球の神様がいるって知ってる?』

『…神様?』

抱きしめられた腕を京介さんがゆっくりと離すと 私のグローブを取って両手を繋いで

『そう…神様。』

もう だいぶ陽も陰ったマウンドの上

『 おまえと初めて出逢ったのはこの球場なんだよ。』

吸い込まれるような京介さんの瞳

『直也のスマホの中で笑う璃子に俺…一目惚れしたんだ。』

なぜだろう…すごく優しいその瞳を見つめていたら

『…京介…。』

涙が一滴溢れた…

ストーリーメニュー

TOPTOPへ