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あなたの色に染められて

第38章 サプライズ


茜色の空から差し込む光が璃子の一滴の涙をオレンジ色に染めていた。

いつもそう。こいつの大きな瞳から零れる滴は汚れもなく心と同様にとても澄んでいて

『俺ね 記憶をなくした後もこのグラウンドで走り回るおまえを見て なに一つ覚えてないのにまたその笑顔に一目惚れしたんだよ。』

おまえは俺が渡した大きなヘルメット被っていつも走り回ってたもんな。

『俺バカだから そのあと勘違いして先生に璃子を渡しちゃったけど なんでかな…もう一度戻ってきてくれるって確信してたんだ。』

だって おまえのハジメテは全部俺だったんだろ?手を繋いだあのときの驚いた表情 二人の気持ちが通ったあとのあのキスも

『泣かせてばかりだけど 俺はおまえのそのコロコロと変わる表情を…その笑顔を一生傍で感じていたい。』

涙をポロポロと溢しながらうんうんと首を縦に振り

『野球の神様に誓うよ。その笑顔をどんなことがあっても全力で守るから。』



『…え…。』

京介さんはマウンドに片膝をつくと私の顔を見上げてニコリと優しく微笑んで

まるで昔 絵本で見た王子様のように私の左手に手を添えて


『結婚してください。』


それはずっと心の奥底で待ち望んでいた言葉

『…うそ…。』

ねぇ…そこに付ける意味わかってる?

左手の薬指に眩しいほどに輝く一粒ダイヤのエンゲージリング…。

煌めく夜景もシャンデリアもないけど

『ほら 泣かないで返事聞かせて?』

離れていたときも見守ってくれてた夕陽と ずっとお互いの気持ちを育んできたこの大好きな場所で 私に想いを伝えてくれるなんて

聞かなくてもわかるでしょ?答えは一つしかないじゃない。

『…はい…京介さんのお嫁さんにして下さい。』

京介さんは立ち上がりガッツポーズをすると

『っしゃー!!!』

空に向かって叫び

『キャッ!』

私を抱き上げクルクルと回って 額を合わせて微笑みあって

『もう これで正真正銘 俺のモノだからな。』

『ずっと 京介さんのモノでしたよ?』

左手の薬指に輝く永遠の輝きはズシリと甘い重みがあって

『キスしていい?』

『野球の神様に怒られませんか?』

『あとで謝っとく。』

お互い想いを語るように重ねた唇

『ヤベ…止まんねぇ。』

世界一幸せ者の私はその唇に酔いしれて

二人一緒に微かに届く茜色に染まった。

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