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あなたの色に染められて

第39章 ハナミズキ


『パパもママも大丈夫?少し呑みすぎじゃない?』

『今日はいいのいいの 。お祝いのお酒なんだから。』

さっきまでの空気はどこえやら…二人はずいぶんとご機嫌で

『今日は最後まで付き合いますから!』

『おっ いい息子だねぇ。』

お祝いのお料理を囲んで 私の幼い頃の話に華を咲かせて

そんなところにいつもは参戦しない ほろ酔いのママが加わると話はいつもとは違った方に流れるもので

『ねぇ京介くん。どうして璃子を選んだの?そのルックスなら選び放題だったでしょ?』

『ちょっと…ママ!』

お酒の力って本当に怖い。ママはテーブルに頬杖をついてニコッと意味深に笑って

『うちの娘ちゃんのどこが気に入ったわけ?』

頭を掻きながら苦笑いをする京介さんはまだママたちほどお酒に呑まれてはいない。

…もう…こんな大事な日にママは何を言い出すのよ…。

『京介さんいいですからね。あっ これ食べます?』

私は話を逸らそうと京介さんの取り皿に大好物の唐揚げをのせるけど

『京介くん?』

逃げられないわよ と言わんばかりの視線を京介さんに送ると諦めたように一つ息を吐いて

…え…。

テーブルの下で私の手をそっと握りしめると 私の顔を覗きこんでクスリと微笑んで

『璃子に出会った日から私の生きてる世界が華やかに彩ったんです。』

優しい目をして優しい声色で

『晴れた日の空の蒼さ、山を染める茜色の夕陽、黄金色に輝く月の灯り…桜の花びらが舞う情景に柄にもなく心打たれたり…。ずっと見てきた景色なのに璃子に出会ったあの日からそのどれもが鮮やかに彩ったんです。』

それは私も初めて触れる心の奥底の根の部分のお話で

『でも 璃子との記憶を失った時は眩しすぎるぐらいに鮮やかに彩っていた世界がモノクロに戻ってしまったんです。』

お互いに思い出したくない記憶はモノクロの世界で

『そして もう一度出逢えた一瞬からまた一気に色彩が戻っていったんです。だから この笑顔を守りたいって。…まぁ…そんなところですかね。』

俯く私の頭にポンと手を置いてニコリと微笑んで。

…ホントこの人には敵わない…。

『さすが~!うちの息子ちゃん!』

身を乗り出して京介さんの肩をバシバシと叩いて

『呑むよぉ!』

グラス片手に…もう何度目?

『カンパーイ!!』

うふふ…今はどんな色に染まって見えるかな。

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