あなたの色に染められて
第39章 ハナミズキ
『…ハァ…。』
『もう何回目?今が一番幸せなときなんじゃないの?』
『だって…。』
クーハンでスヤスヤと眠っている美紀の赤ちゃんの頬を指先で撫でながら 勝手に漏れた溜め息。
『まだ式場のことで悩んでるの?京介さんは璃子の好きなところでって言ってくれてるんでしょ?』
そうなんだけど…。
この一ヶ月 両家の顔合わせや式場選びと限られた時間のなか京介さんと私は走り回った。
『じゃあ 好きなところにすればいいじゃない。』
好きなところ…そうなんだけど…。
『美紀の時は直也さんが動いてくれたよね?』
『まぁ 悪阻で動けなかったってこともあったけどね。』
『…ハァ…。』
またまた大きな溜め息を吐く私はマリッジブルーなのであろうか…
『京介さん一緒に考えてくれないの?』
『そういう訳じゃないんだけど。』
尖らせた唇にコーヒーカップを添えて飲むでもなく冷ますわけでもない私。
『じゃあ どうしたの?それを相談したくて野球行かないでうちに来たんでしょ?』
美紀は私が困り果てて悩み出すと面倒くさいということをよく知ってる。
『なんかいいなぁ 美紀は幸せそうで。』
テレビ台の上には結婚式や赤ちゃんの写真がランダムに並べられて
少し片付いていないキッチンやダイニングテーブルの上が子育て中でそこまで手が回ってません。っていう感じで羨ましくも見えて
『えぇ幸せですよ。悩みながらも結婚式も二人で協力してやりましたし 可愛いベイビーも授かりましたし。』
『ですよね。』
きっと小さなことで悩んでるんだってことはわかっていた。
『なんかさ 少し寂しくって。』
でも何となく口に出来なかった。
『私はね二人のこれからのことだから なんでも二人で決めたいの。でも 京介さんは私の好きでいいよって。』
『でたよ。優しすぎて困るってパターン?子育て中の私にノロケ話ですか。』
『茶化さないでよ。』
美紀はいつものようにクスリと微笑んでテーブルに頬杖をついて
『お式のことで向こうから色々条件つけられたんでしょ?』
やっぱり美紀のお家に来て正解だった。
『…うん…。』
『話してごらん。優しいお母さんが聞いてあげる。』
小さく深呼吸すると
『あのね…。』
大きなお家に嫁ぐのって 私が想像してたよりもすごく大変なことだった。