あなたの色に染められて
第39章 ハナミズキ
『500人?』
『うん。』
『おまけに次期社長か…それは大変だぁ。』
この間の顔合わせの時にお義父さんは竜介お兄さんを杜氏に 京介さんは次期社長に考えてる旨を口にした。
そうなれば結婚式も“好きなように”何て言ってられない。取引先の人から地元の名主まで酒蔵に関わる方たちへのお披露目会的なことになる。
『お兄さんの時もそのぐらいだったの?』
『そうみたい。お姉さんが大変だったって苦笑いしてたから。』
たくさんの人に出席してもらうのはわかるけど 私たちの力だけじゃ無理なのも現実。
『お友だちも呼びたかったの。でもそんな大きなお式じゃせっかく来てもらってもお礼も言えないよ。』
『そうだよねぇ。璃子たちはみんなに支えてもらってきたからねぇ。』
改めて結婚は自分達だけの問題なんじゃないって思い知らされた。
『私はね 白無垢かウェディングドレスが着れて みんなに報告出来ればそれでいいんだ。普通で…普通でいいんだよ。』
でも それはこの状況だと夢のまた夢。
ぬるくなったコーヒーカップを両手で包んで大きな溜め息を吐くと
…ガチャガチャ…。
『ただいまー』
『おじゃましーす。』
直也さんが京介さんを連れて元気よく帰ってきた。
『ちょっと シー!って…あれ?午後は?』
唇に人差し指を添えて私まで一緒になってシーだなんて
『あっ 悪ぃ悪ぃ。昨日までの雨がまだ残っててグラウンドがグチャグチャで。』
京介さんは私の横にしゃがみこむと眠っている赤ちゃんを覗き込んで優しく微笑んだ。
『可愛いなぁ。』
京介さんはとても子供好き。ケンタくんにチーちゃんにお兄さんの栞ちゃん。傍に居ればいつもこうやって目を細める。
『さて 式場見学に行くか?』
膝をパチンと叩いて立ち上がり 赤ちゃんを見ていた優しい瞳で私を見下ろすけど
『…あ…うん。』
正直 会場なんてどこでもいいと唇を尖らせて俯く私。
『また そういう顔する。』
最近の私はずっとこんな感じだと思う。
『…もうどこでもいいよ。』
溜め息混じりに言葉を口にする私は 本当に酒蔵のお嫁さんとしてやっていけるのだろうか。
そんな気持ちを察してくれてまた屈みこんで困ったように微笑んで
『キャパオーバーだな。』
私の頭にポンと大きな手のひらをのせた京介さんのシャツの裾をギュッと握りしめた。