あなたの色に染められて
第40章 誰かのために
『ただいま~。』
『迎えに行くから電話くれって言ったのに。』
『ゴメンナサイ。今ご飯の支度しますね。』
璃子はいつものピンクのエプロンに身を包むと 買い物袋からあれやこれやと食材を出した。
『なんか悪いな…疲れてんのに。』
『大丈夫ですよ。パパッと作っちゃいますから。』
璃子が俺より遅く帰ってきた理由。それは商工会の婦人会にお袋と挨拶に行ったから
『いただきまーす。』
黄色いフワフワの玉子で包まれたオムライスと野菜スープを口にしながら様子を聞いて
『どんな雰囲気だった?』
『みんないい人でしたよ。あっ 角の写真屋さんが京介さんによろしくって。』
今までお袋が担ってきた婦人会を璃子が受け継ぐことになったため今日の会合に挨拶がてらに顔を出してきた璃子。
『あんまり無理すんなよ。昨日もお袋の用事に付き合わされてたんだから。』
ここのところ結婚式の料理の打ち合わせやら 秋に向けた酒蔵見学の予定のことなどで忙しく動き回っているコイツ。
『あっ。洗濯しなきゃ…。』
同じ職場にいるのにお互いの仕事か忙しすぎてスレ違いぎみになってた。
璃子が俺んちに泊まるのなんて何週間ぶりだ?
スリッパの音をパタパタと奏でながらこの部屋を動き回る璃子の姿を見るのはとても久しぶりで
『ねぇ。窓閉めていい?』
夜風もだいぶ涼しくなった9月の中頃
『あっ 満月。』
『ホントだ。』
こうやってコイツを抱きしめるのも
『…んっ…。』
苦しがるほどキスをするのも
『…京介っ…。』
肌を重ねることも どれぐらい振りだろう。
果てたあとの会話の途中で寝息をたててしまう璃子はいつもにも増して小さく感じて
竜兄の香織ちゃんは蔵で働く従業員の身の回りの世話。璃子は蔵全体のおかみさん的な役割で対外担当。
俺らがこの蔵を背負うということは自然と嫁さんも巻き込むってことなわけで
『あんま無理すんな…。』
それをなにも文句を言わず率先して動いてくれるコイツに俺は頭が上がらない。
丸みを帯びた額に唇を落として 起きない程度にギュッと抱きしめて
明日の昼飯はいつかのラーメン屋にでも連れてってやるかな。
手を伸ばし 璃子のスマホのアラームを切ろうとしたときだった。
…なんで?
璃子の画面に表示されたメッセージはアメリカにいるはずの“たっちゃん”からだった。