あなたの色に染められて
第40章 誰かのために
『本当に帰ってこなくていいんですか?』
『うるせぇなぁ…。』
璃子がセンセイと約束してる月曜日。
仕事帰りに駅まで乗せてくると降りる間際 イタズラに微笑みながら俺の顔を覗き混む。
別に信用してない訳じゃないんだけど いつもより少し浮き足立ってる仕草が気に食わなくて
『いいから 早く行けよ。センセイによろしく。』
なんて冷たくあしらうけど
『ウフフ…バイバイしたらすぐに電話しますね。』
俺がヤキモチ妬いてるのを面白がっちゃって
『電話なんかいらねぇ。久しぶりに飯でも食ってこいよ。』
だから 俺は強がって見せたりして
『ハイハイ じゃあお言葉に甘えて…行ってきます!』
バタンと笑顔でドアを閉めて手を振られればこっちまで自然と笑みがこぼれる。
だって アイツの指には俺の想いが詰まったエンゲージリング。
さっき 車の中で幸せの証だって言いながらバックから取り出して大事そうに指にはめてたよな。
階段の途中でもう一度振り返って手を振る璃子にクラクションを軽く鳴らして俺は地元の会合に出席するために車を走らせた。
***
『よっ。』
『久しぶり!』
改札口の向こうから手を振り走り寄って来る璃子は相変わらず笑顔がよく似合う。
『元気そうだな。』
『たっちゃんも元気そうでよかった。』
俺は頭にボスっと手を置いて
『飯でも食うか?』
誘ってみたりして
『ご馳走してくれるなら。』
現金なヤツだと笑いながら 洒落た駅前の居酒屋に入った。
『とりあえず生と…。』
『私 オレンジジュースで。』
御曹司に気を使ってジュースですか…。
『あっ これも食べたい!』
『相変わらずよく食うなぁ。』
二人でひとつのメニューを覗きこ込んでいると 俺の目の前に永遠の輝きが煌めいた。
普段使いするには違和感のある アイツの想いと同じぐらいの大きなダイヤのリング。俺から見れば魔除けだな。
一通り注文してメニューをパタンと閉めると
『…幸せか?』
唐突に聞いた俺に迷いなく大きく首を縦に振って
『幸せだよ!ほら。』
芸能人の結婚発表でもねぇのに顔の横に掌を添えて アイツの想いがたっぷりこもった指輪を見せつけて微笑んで
今日は久しぶりにノロケ話を聞かされると覚悟して重ねたグラス。
『璃子 おめでとう。』
やっと言えたな…祝福の言葉。
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