
あなたの色に染められて
第40章 誰かのために
『じゃ 長谷川さんまた連絡しますから。直也も美紀ちゃんもありがとな。』
『じゃあ また…。』
『おやすみなさ~い!』
長谷川さんも直也のところも実家に子供を預けてきてるので せっかくだから もう少し二人の時間を楽しみたいと店を出たところで別れた。
『じゃ 帰ろうか。』
『はい。』
久しぶりに並んで歩く俺たち。相変わらず璃子の歩幅は狭くチョコチョコと子犬のように俺の後を付いてくる。
『ほら。』
左手を少し後ろに差し出すと 尻尾を振って指も腕も絡めて
『京介さん。』
『あ?』
振り向けば満面の笑みで俺を見上げて
『佑樹さん良かったですね。』
『だな。相手が萌なのはさすがに俺も驚いたけど。』
『ホントですね。』
俺以上に驚いたのは璃子だったはず。でも 二人の寄り添う姿にだんだんと目を細め 帰る頃には萌のお腹まで触ってた。
気付けば結婚も子供も俺たちが一番最後になっていた。
夜風もだいぶ涼しくなった10月の半ば 結婚式は1ヶ月半後。
うちの日本酒に合う料理もなんとか決まり 招待状の返信もボチボチ届き始めた今日この頃。
『あの…今日 お泊まりしてもいいですか?』
バカだな。おまえはまだ遠慮がちにそんなことを言う。
『ダメって言うと思う?』
『だって…最近忙しそうだから一人でゆっくりしたいかなって…。』
間違いなく忙しく動き回っているのは璃子の方なのに。
海外の対応に酒蔵見学。結婚式の準備、それに最近じゃ お袋の代わりとして会合やら顔見せに駆り出されて
『誰かさんが来ない方がゆっくり出来ないんだけど。』
『あ~ またYシャツ溜め込んでるんですか?』
どんよりとした雲の切れ間から微かに三日月が覗いた。
***
『璃子~おまえも呑む?』
風呂上がりタオル片手に冷蔵庫からビールを2本手にとって
『なんかつまみ買ってくればよかったな…って…寝てるし。』
璃子を先に風呂に入れて正解だったのか。
ソファーの上に横になり いつものように少し口を開けてすっかり夢の中の住人。
『…ったく。』
ソファーの下に腰を下ろし 頬にかかった髪をそっとかき上げて 丸みを帯びた額に唇に落とす。
『相変わらず頑張り屋さんだな おまえは。』
柔らかな髪を撫で
『また お預けか…。』
愛らしい寝顔を酒のツマミにして一人ビールを楽しんだ。
