あなたの色に染められて
第41章 あなたの色に染められて
溢れた想いが璃子の頬を伝うと璃子は小さな声で
『…幸せですね。』
『…だな。』
俺は璃子とその想いを共有するように手を掬い上げ指を絡めた。
『見せつけんなよ!』
『璃子ちゃん真っ赤~!』
『イチャイチャすんな!』
あたたかい拍手と共に いつものヤジが会場に響き渡ると
『それでは最後に可愛いお嫁さんを射止めた京介さんから一言お願いします。』
渡されたマイクを握ると 何故だろう…最後の夏の大会で惜しくも涙を飲んだあの試合がフラッシュバックのように瞼に映し出された。
白球を追いかけ 次のバッターに必死に繋ぎ チーム一丸となって甲子園への切符をただ追い求めていたあの夏。
最後の一点が遠くて天を仰いだ俺たちにスタンドからは鳴りやまない拍手と大歓声。
あのときの俺はキャプテンとしてみんなを甲子園へ導くことが出来なかった自分の弱さを攻め ただ悔しくって泣き崩れた。
『えっと…今日は俺たちのために本当にありがとうございました。』
見渡せばあのとき俺の肩を抱いて共に涙を流してくれたメンバーと
肩を落とす俺に労いの言葉をかけ続けてくれた諸先輩方
『こんなにたくさんの人たちに祝ってもらえるなんて思ってもみなくて…。』
そんな大切な仲間の笑顔を見ていたら言葉が出なかった。
『…っと…。』
あのときもそうだった。どうやって感謝の気持ちを紡げばいいのか
『…っ…。』
いつだって大事な場面で言葉が足りない俺…。
『京介~!らしくないぞ!』
…いつぶりだろ 胸に込み上げてくる何かを感じたのは…
こんな大切な感情を思い出させてくれたのは 俺の手をギュッと握って微笑み寄り添ってくれる最高の女に出会えたからで
『…璃子とこの場に立てるのはある意味奇跡で…。』
ホントに後にも先にも俺たちぐらいだろう。こんなにたくさんの人たちに助けてもらいながらこの日を迎えられたのなんて。
『…記憶なくして 離ればなれになって 辛い思いさせて…でも みんながいつもどこかでさっきの写真みたいに俺たちを見守ってくれてたから…俺たち…っ…。』
あ~ぁ格好悪い…。オレの感情 止められなくなったじゃねぇかよ。
直也のスマホの中で誰よりも輝く笑顔を見つけたあの日から やっと迎えられたこの良き日…。
あの夏と違う感謝というあたたかな想いで溢れた雫が俺の頬を濡らした。