あなたの色に染められて
第9章 jealousy
京介さんとあの素敵な人がみんなのいるベンチに戻って来たのは休憩のあと私が洗い物に行っていたときだった。
『よいしょ…と。』
両手に抱えたおしぼりやらコップをベンチの端に置く。
…やっぱり綺麗な人だ
彼女はメガホン片手にベンチの真ん中に座っていた。
『こんにちわ。』
『…こ…こんにちわ。』
振り向くと彼女は立ち上がり綺麗な髪をかきあげながら優しく微笑んで私を見ていた。
『誰の代のマネージャーかな? 』
背が高くてモデルさんみたいな体型
『あ…あの…』
髪も緩くキレイに巻かれて、お化粧もちゃんとしてる
『わ…私マネージャーじゃないんです。』
背が低くて丸顔でノーメイクに近い私とは比べ物にならないぐらい魅力的な人
『あの…京介さんの…』
『京介?』
瞳が重なるとそれ以上の言葉が紡げなかった。
彼女ですって…
胸を張って言えなかった。
彼女はクスッと笑うと
『京介の知り合いか…私、藤森遥香です。京介の代のマネージャーしてたの。』
…京介…呼び捨てなんだ
『すいません、私は高円寺璃子です。』
頭をあげると 私は彼女を見上げる。
『璃子ちゃんか、よろしくね。』
そう言うと私が持ってきたかごの横に座り
『一緒にたたもうか。』
『は…はぃ。』
おしぼりをたたみ始めた。
…いい香り
横に座っておしぼりを一緒にたたみ出すと 甘くて優雅な香りが私の胸をしめつけた。
…大人の香り
京介さんの隣が似合いそうな香り
小さく溜め息をこぼしてグラウンドに視線を向けると
『やっぱり野球やってる顔はイイ顔だね。明日勝てるといいね。』
遥香さんは京介さんに手を振りながら微笑んだ。
…私何やってるんだろう
遥香さんに手を振り返す京介さんと私はまだ話もしていない。
…苦しい
はじめてだこんなモヤモヤした感情
二週間前に久しぶりに会ったあの日
京介さんはいまだに不馴れな私を愛してくれたのに…
この球場に来てもう二時間もいるのに話もしに来てくれない。
…私なんか
自分の惨めさに涙がこぼれそうになる。
いつも綺麗なバックスクリーンの横の夕陽さえも、見れなくなっていた。