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あなたの色に染められて

第9章 jealousy


『綺麗…』

なんとなくベンチに居ずらくなった私は自販機でカフェオレを買ってスタンドから夕陽を眺めていた。

ベンチより鮮やかに見えるオレンジ色のグラデーション。

この球場に来て知った夕陽の色

カフェオレの缶を膝の上で握りしめて冷たい風に負けまいと暖を取った。

…何やってんだろ

もう何度もこの台詞を自問自答してる。

恋愛上級者の京介さんなら 甘い言葉を囁いたりベッドを共にすることだって慣れてるはず

そんなの最初からわかっていたはずなのにバカだな…私

『…ハァ…』

大きな溜め息をひとつ吐いて少しぬるくなったカフェオレを口に含むと

『璃子。』

『京介さん…』

振り向くといつもの優しい顔で私の方に向かって歩いてきた。

『何やってるの?』

『夕焼け…ここすごく綺麗なんです。』

彼はポケットに片手を入れたまま私の横に座った。

『ホントだ。璃子の顔が真っ赤になってる。』

彼は私の頬に手を添えるとそっと引き寄せて髪にキスを落とした。

『冷たいな。風邪引くぞ。』

『ひいたらお見舞いに来てくれますか?』

『当たり前だろ。』

私の冷たい小さな手を豆だらけな大きな手が包み込む。

それだけでよかったのに…

『いた~!京介帰りなんか食べて帰ろうよ。私お腹減っちゃった。』

えっ?

バカだな。私は包まれていた手を引いてしまった。

…なんで?

二人で帰る約束はしていないけど練習のあとは彼の家でゴハンを作るのが定番だったよね?

それなのに

『いいよ。璃子、遥香も一緒でいい?』

…二週間ぶりだよ?

明日の試合のためにスタミナたっぷりなの作ろうと思ってたのに

『はぃ…』

たくさんキスをしてもらおうと思ってたのに

『わかりました。』

面倒なオンナだなんて思われたくなかったから。

『京介何ご馳走してくれる?』

『うるせぇよ。』

ベンチに荷物を取りに行き 彼の車に戻ると

…ウソ

私の指定席の助手席には彼と笑顔で話す遥香さんが座っていて

…乗れないよ

遥香さんのなかで私は京介さんの “彼女” ではなく “知り合い” で 京介さんのなかでも助手席は私の指定席じゃない。

…本物のバカだ

踵を翻してスマホを取り出しLINEを開く

“用事を思い出しました。 電車で帰ります”

これが恋愛初心者の精一杯の足掻きだった。

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