あなたの色に染められて
第12章 学会
翌日 先生に買ってもらった 薄いベージュのスーツを着て学会デビュー。
腕を組まないまでも 半歩後ろを寄り添い にこやかに振る舞う私。
学会はただ 研究結果を発表するだけの場ではなく 医療機器メーカーや製薬会社のブースがありとても盛大なものだった。
『思ってたのと違いますね。なんか テーマパークみたい。』
『ここはね 日本の医療の最先端なんだよ。新しい研究結果を知れて 新型の医療機器に触れられて 特効薬に出会える。
医学って毎日新しくなってくから 俺たちも日々勉強なわけよ。』
『…人の命って色々な人に支えられてるんですねぇ』
『さすが俺の彼女じゃん。』
『…先生!彼女のフリですからね!』
クスクスと笑いながら歩いていく先生。
この学会に来てから 上から目線な所はあまり変わっていないけど お喋りでとにかくよく笑う。
病院にいるときとは別人のようだった。
もともとイケメンな先生なので この笑顔と話術を合わせればほかの人が放っとくわけがない。
そう。それが彼女役をやらなければならない理由だった。
年配の先生に会えば 娘を紹介され
若い女医に会えば 隣に私がいたって甘い声で囁かれる。
将来有望の心臓外科医は引く手数多で……
『先生。私がいない方が選び放題でしたよ?』
進行方向を向いたまま 私の目を見ることもなく
『……なんだよそれ』
『私が邪魔になったらすぐに離れますから サイン送ってくださいね。』
後ろからケラケラと声をかける私
ハァ……
大きくため息をつく先生。
『俺はね。自分の目で選んだオンナがいいの。お見合いとか自分でアピールしてくるオンナとかムリ。』
『でも すごく条件がいい人ばっかりじゃないですか。教授の娘さんとか 美人な女医さんとか。』
フッといつもの冷たい目に変わる。
『じゃあ お前さ。今の彼氏より高学歴で高収入な俺に変える?』
『……それは』
『そういうこと。余計なこと考えんな。俺のオンナはお前なの。』
そう言うと 私の右手を取り昨日と同じように腕を組ませて次の会場へと歩きだす。
先生の素顔に少し垣間見えた気がした。