あなたの色に染められて
第12章 学会
『ふぅ~。』
お湯をはったバスタブに身を沈めて天井を見上げる
店を出たあと 先生は普段通りで…
私のほうが 落ち着かなくって
あんな先生は はじめてだった。
儚げな 切ない 瞳
私の頬へそっと伸びてくる たくさんの命を救ってきた繊細な指。
低音なのに威圧感のない掠れた声
私の心の弱いところを包み込んでくれるような掌
……ダメダメ。
お湯をすくい顔にバシャバシャとかけて 首をブルブル振り 忘れようとするけれど
お酒に酔ってただけだって。先生だって疲れてるんだって。
そうだそうだ。
お店を出てからだって いつも通りだったじゃない。
なかったことにするんだ。
そう。忘れるんだ!
ザバッ っと大きな音をたてて私は立ち上がり 少し熱めのシャワーを浴びて部屋に戻る。
冷蔵庫からお水をとり ベッドに腰掛けて スマホを開くと京介さんからの着信があったことに気づく。
……19時
もう 23時かぁ。
少し悩んだけど
トゥルル、トゥルル……
寝ちゃったのかな。
そう思って 切ろうとしたとき
カチャ
“あっ。京介さん?……ゴメンナサイ。”
“…………。”
“もしもーし。あれ?寝ちゃってる?”
“………。”
“切りますね。……おやすみなさい。”
“……プチっ”
えっ? 京介さんから切られた。
寝ぼけてる?
土曜日も仕事だもんね。京介さんも疲れてるんだ。
ベッドに横になり 眠れそうにない目をギュッと瞑った
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『おい。ここに居たのかよ。俺のスマホ返せって。』
『ハイハイ。随分とラブラブな写メが多いこと。』
『中 見んなよ。まったく…犯罪だぞ。』
『いいじゃない。でも ベットのシーツにくるまって チューしてるのは衝撃的だったけど。』
『バッ!バカ!!見んじゃねーよ!!』
『じゃーね。先に帰るわ。みんなによろしく言っといて』
『遥香。気を付けて帰れよ。』
京介は暖簾をくぐり店内へ。私は振り返らずに駅に向かう。
あの子の声。聴かなきゃよかった。
あんなに心の澄んだ “おやすみなさい”
を 聴かなきゃよかった。
頬にひとすじの滴が流れおちた。
私だけの京介だったはずなのに……