あなたの色に染められて
第13章 Bath time
…ヤバイヤバイ…遅刻だよ……。
やっと迎えた土曜日。
仕事を定時で上がり お泊まりセットとお土産を持って いつもの居酒屋へと急ぐ。
久しぶりに逢えるんだ。
きっと今の私はニヤニヤしちゃってる。
何度も頬を掌で覆い真顔に戻そうとするけど ニヤけてるはず。
『こんばんわ~。』
いつもの暖簾をくぐって カウンターの大将に挨拶をして目指すは京介さんのいる奥のお座敷。
『璃子ちゃーん!』
いつものように直也さんに呼ばれて視線を向けると
あっ…。
そこには優しく微笑む大好きな人。
『こんばんわ。』
『お疲れ。』
大きな手を私の頭の上にポンと置いて期待を裏切らない いつものあの優しい笑顔で
『お帰り。』
『…ただいまです。』
頭に乗せられた彼の手が スッと降りると テーブルの下にある私の手を包み込んでくれた。
その手は私のすべてを抱き締めてくれているかのよな心の奥がキュッとする感じ。
『璃子ちゃん 顔真っ赤だよ!そんなに京介さんに逢いたかったんだぁ。』
『…いゃ…そんな。』
京介さんが直也さんをジロリと睨み小さくなった直也さんを見てみんなが笑いだした。
『璃子 札幌どうだったの?大変だった?』
帰ってきてから美紀ともゆっくり話せずにいたんだ。
『…うん。なんか色々 知らない世界だった。でもね 久しぶりに英語に携われたの。それはイイ経験だったかなぁ。』
『英語?』
京介さんが私の顔を覗きこむ
『あれ?京介さん知らないの?璃子ね △△大学の英文学科出てんだよ。』
『マジ?璃子ちゃんスゲーな。』
『…イヤイヤ。』
ペラペラなんてとんでもない。なんとか聞き取れるぐらいだったもの。
『じゃあ 学会でも先生の補佐で大活躍だったんじゃない?』
『どうかなぁ でも また勉強したくなっちゃった。』
『俺 英語全然ダメなの。俺と甘ーい個人レッスンしない?』
『佑樹 お前ホントにシバくぞ!』
懲りない佑樹さんは私の方へグッと近づいて
『璃子ちゃんこんな恐いお兄さんやめて そろそろ俺のとこに来いって。』
『イヤイヤ。それはありませんから。』
佑樹さんから逃げるように体を反らせると京介さんに肩をグイッと抱きよせられ
『だから~。俺のなの。』
笑ってるみんなの声。
顔を上げられない私。
私はこの空間が大好きだった。