僕が僕を殺した理由
第3章 。。。
コンビニの必要以上に明るい照明は、何故だか僕を安心させた。買うつもりもない週刊誌を手に取り、持て余した時間を過ごす。それは僕だけではないようで、僕の隣にも同類らしき人物が数人。そして時間帯のせいなのか、妙なテンションを保ったままの若者がやけに目につく。僕は、僕たちの存在を迷惑そうに背後を横切る買物客を尻目に、熱心なほどに本に読み入っていた。
「朔哉‥‥さん?」
不意に僕の名を呼ぶ声がした。無防備でいた僕は、それに驚きを隠せないまま振り返る。
「‥‥あ、‥‥どうも」
目の前には仕事着であろうスーツを着たままのイツキがいて、僕の間の抜けた声にも優しく微笑んでいた。
「こんばんは」
「‥‥こんばんは」
思いもよらない人物に僕は動揺を隠せず、その声は上擦ったままだ。イツキはそんな僕に御構い無しに、言葉を続けた。
「仕事帰りなんですけど、少しお腹が空いちゃって‥。朔哉さんは?」
「俺は煙草を‥‥」
「そうですか。あっ、もしかして朔哉さんのお家も、この辺とか?」
「そうだけど‥‥」
「あたしもなんですよ。奇遇ですね」
イツキの一方的な話に煩わしさを感じながらも、僕は上面だけの笑顔を浮かべ相槌を打った。そして読み掛けの週刊誌を元の場所に戻すと、その話に耳を傾けるふりをしながら、店内を物色する。空腹を満たすためのカップラーメンと、手放す事のできない煙草。そして、誰にも飲まれる事のない缶ジュースと、結局は読み掛けだった週刊誌を購入し店を出た。
僕の傍では、イツキが尚も煩く囀っている。僕は会話を終わらせるきっかけも掴めずに、「送っていくよ」とイツキに告げると急ぐように車に乗り込んだ。
が、イツキは車に乗り込んでくる気配は見せず、その場に佇んだままだ。それに僕は面倒臭さを感じ舌を打つと、僅かにだが窓を開けイツキに声を掛けた。
「どうした?乗んなよ」
僕は視線を動かし、助手席を示す。
「いえ、近くなんで、歩いて帰ります」
「そう。んじゃ、気をつけてね」
もともと送っていくつもりなどなかった僕はその答えに安堵すると、イツキの方を再度見る事もなく、車を静かに発進させた。
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