煩悩ラプソディ
第1章 それはひみつのプロローグ/ON
そんな恥ずかしいセリフ、よく言えるよ。
いつだって、まっすぐに伝えてくる。
…そういうところにも、惹かれたんだ。
「だからね…俺も言わせて?
想ってたこと、言うから…」
体を離した時になんとなく添えられていた大野さんの手が、腕から肩へと移動してそっと両手で包み込まれる。
「俺は…
お前が、にのが…
ずっと好きだよ…」
その声は、とてつもなく甘くて優しくて。
じんわりと胸に染み込んできて、目の前がだんだん霞んでいく。
不覚にも、涙がこみ上げてきた。
夢なんじゃないかと思った。
"想い合う"って、こんなに幸せなことだったっけ。
「…なに泣いてんだよ」
そんな俺を見て困ったような顔でそう言う大野さんの目にも、溢れそうなほど涙が溜まっていた。
「…あなたもね、」
人差し指で目を一回擦ってそう言うと、この空間がなんだかくすぐったくて二人してクスクス笑った。
…あぁ、これが"幸せ"ってやつなのかな。
こんな感覚、もう忘れてた…。
「あ…にのも、もっかい言ってくんない?さっきの」
「え?」
「俺見て、言ってくんない?」
少し悪戯っぽい顔でそう言って、自分の膝に手を置くと姿勢を正して聞く態勢を作る。
まだ目が赤いくせに、ヘラヘラしながら俺に促しの目を向けていて。
…もう、なにこのおじさん。
俺どんだけ勇気出して言ったと思ってんのよ?
ほんっと…仕方ないなぁ…
「…じゃ、一回だけよ?もう言わないからね?」
「うん」
あからさまに嬉しそうな顔で返事をして、ワクワクした眼差しを送りつけてくる。
すうっと息を吸って、ふぅと短く吐いた。
でもやっぱり恥ずかしかったから、俯いて目線だけを大野さんに向けた。