煩悩ラプソディ
第1章 それはひみつのプロローグ/ON
大野さんが握っていた手を引き寄せて、俺を抱き締めていた。
「え、ちょ…」
ぎゅうっと力が込められて、肩口に乗せられた頬に柔らかい髪が掠めていく。
大野さんの匂い。
合わさった胸元から、早い鼓動が伝わった気がした。
「…ね、ちょっとだけ、聞いてくれる?」
静かに囁くように言われるとこくりと頷くことしかできずに。
抱き締められたまま次の言葉を待った。
「…俺たち昔からさ、一緒に居ること多かったじゃん?
最初はさ…じゃれたりしてベタベタしてるだけだったけど、気づいたら横に居てさ…
それが普通になってってさ、」
耳元でポツリポツリと言葉を紡いでいる。
そんな大野さんの優しい声色に染まりたくて、そっと目を閉じて聞いた。
「なんか…にのと居ると落ち着くんだよ。
なんだ…こう、自分でいられる、っていうか。
…そんとき気づいたの、俺にのがいいって。
横に居てほしいって。
…でもね、これは言わないって決めてたから…
このままの方がいいって…」
言葉の途中で抱き締めていた腕の力が緩み、そっと体を離された。
至近距離で見つめ合う形になり、急にまた恥ずかしさが湧き上がってくる。
「けど…さっき言いかけたでしょ?
…期待しちゃったんだよね、もしかしてって。
ズルいけど、俺」
一瞬目を伏せてはにかんで、また真っ直ぐに俺を見つめる。
「だから、にのが好きって…頭ん中俺でいっぱいって言ってくれたの、すごい嬉しかった。」
微笑みながらそう言う大野さんを直視できず、思わず目を伏せてしまう。