煩悩ラプソディ
第11章 始めの一歩/SA
二年前、かずが三歳の時に妻と離婚してからは毎日が本当に忙しなかった。
仕事と家事、かずの通院治療、一人で何もかもをこなしていた。
そんな俺の余裕のなさが、きっとかずに伝染してしまったんだろう。
半年前からかずの体調が著しく悪くなって入院治療に切り替わってしまって。
仕事が繁忙期になると毎日は見舞いに来れなくて、かずには寂しい思いをさせてしまっていた。
それでも面会時間ギリギリの少しの時間だけでも、かずは俺が来ると嬉しそうに迎えてくれて。
俺は父親としてこの子に何もしてあげられてないことに、情けなさと申し訳ない思いでいっぱいになった。
そんな時、かずに新しい友達ができた。
同室になった、かずと同い年で同じ病状を持った櫻井潤君。
子どもたちはすぐに打ち解け、見舞いに行くといつも一緒にいた。
潤君はかずと同じで小さくて可愛らしい顔をしていて。
俺にもすぐに懐いてくれて、その笑顔にはいつも癒された。
ある日病室を訪ねると、潤君のベッドの傍に男性がいた。
俺と歳も変わらなそうな爽やかな印象の男性。
ーそれが潤君の父親、櫻井さんだった。
櫻井さんは偶然にも俺と同じシングルファザーで。
仕事と家事の両立のこと、子どもたちのことなど共通する部分がたくさんあって、やけに親近感を覚えた。
俺が仕事で見舞いに行けない日も、櫻井さんは仕事の合間を縫って潤君とかずに会いにいってくれて。
俺たち親子にとって櫻井さんと潤君は自然と大切な存在になっていった。
櫻井さんは俺の心の支えでもあり、勇気付けられる存在で…
いつしかその想いが”特別”なものに変化していったのを俺は自覚していた。