煩悩ラプソディ
第11章 始めの一歩/SA
「いや、料理はどうも苦手で…
いつも大したもの作ってやってないんです」
そう言って自嘲気味に笑うと潤君の頭をそっと撫でる。
「こんな時…父親の限界を感じちゃいますよね…」
なんとなく静かになった空間に居間のテレビから小さくバラエティー番組の笑い声が聞こえてくる。
その静けさを打ち破るように、かずがボソッと口を開いた。
「…潤くんうちにきたらー?
ねえ?おとー」
突拍子もないそのセリフにポテトサラダが喉に詰まりそうになった。
…ちょ、かず、なに言ってんの!?
「おいしいごはんたべれるよー?
ねえ?おとー」
”ねえ?おとー”じゃなくて!
そんなの櫻井さんだって困るに決まってるじゃん!
「かず、ちょっと待っ…」
「じゅんくんのおとーさん、いいー?」
「ねえパパ!いいのー?」
キラキラの目で櫻井さんの腕を掴む潤君。
櫻井さんはと言えば、盛大に赤い顔をしていた。
…えっ?
「…いや、そんなこと…相葉さんに迷惑だろ?
パパ頑張るから、な?」
そうやって潤君を宥める櫻井さんはやっぱり赤い顔のままで。
「かず君、ありがとうね。ほんと、こんな美味しいご飯食べれてかず君羨ましいなぁ」
少しおどけたように笑って再び料理を口に運び始めた。
「ほら、せっかくの料理が冷めちゃうから食べなさい」
続けて潤君にそう促すとかずも手を動かし始めた。
櫻井さんが申し訳なさそうに笑って視線を送ってきたので、つられてヘラッと笑っておいた。
…てか、さっきの反応はどういうこと?
かずの言葉を、俺と同じように受け取ったってこと?
それって…
いや、そんなはずない。
櫻井さんが、まさか。
頭の中を一方的な思考が駆け巡るのを振り払うように、櫻井さんさながらにオムライスを一気に頬張った。