煩悩ラプソディ
第2章 僕の目が眩んでるだけ/ON
結局、ほとんどにのの顔を見ることができなかった。
顔を見たら夢の中のにのが蘇ってくるようでなんか怖かった。
それに、まだ心臓が落ち着かない。
このぎこちない感じがむず痒くて、ローテーブルに置かれた雑誌を適当に取って開く。
…落ち着け、俺。
夢のことは考えるな。
特に興味がある訳ではない雑誌を眺めながら、次第に平常心を取り戻しつつあった。
すると、雑誌を見る視線の先に一瞬影が過ぎていって。
そしてすぐ、左側が緩やかに沈む。
目を遣ると、バックレストに頭まで完全に体を預け無言でゲームの画面を見ているにのがいた。
こちらには一瞥もくれず、ひたすらに画面を見ながら忙しなく指を動かしている。
…なんでこっちくんだよ!
わざとこっちに居たのにっ…
雑誌とにのとをチラチラ交互に見つつ、またも心臓が高鳴っていく。
やば…
せっかく落ち着いたと思ったのに…!
にのが横に居るだけでこんなに動揺するなんて。
あんな夢を見てしまった自分を呪いたい。
夢の中のリアルな感覚を思い出し、体中がじんわりと熱くなってきた。
すぐにでもここから離れたいけど、そんなことしたら絶対怪しまれる。
また隣を盗み見れば相変わらずゲームに集中している。
たまに鼻を啜ったり、目をしばたかせているいつもの横顔がそこにある。
…あぁ、顔見たらヤバいわ。
マジで逃げたい、ここから逃げ出したい!
「…なに?」
ぼそりと隣から声が聞こえた。
「…どうかした?」
画面を見つめたまま口だけを動かして問いかけてくる。