煩悩ラプソディ
第14章 恋も二度目なら/SA
「…翔ちゃんどうかした?」
ふいに相葉さんから問いかけられる。
オムライスを頬張りながら窺うようにこちらを見ていた。
「え?」
「や、なんか元気ない?体調悪いの?」
「あ、いや…ごめん、なんでもないよ」
今朝のようにぼんやり考え込んでしまっていた俺に、なお心配そうな眼差しを向ける。
それを振り払うように努めて穏やかな笑みを向けてスプーンを口に運んだ。
「…あ、子どもたちどうだった?」
「んふ、もうね、元気すぎて大変だったんだから」
それから思い出したように、今日の子どもたちの様子をジェスチャーを混じえて話し始める相葉さんを見つめる。
その屈託のない笑顔に何度胸を締め付けられたか。
そして、一歩を踏み出せない自分に何度嫌気がさしたか。
だけど…
俺たちは、あの子たちの"親"で。
そして、俺たちは"家族"ー。
「…ねぇ、聞いてる?」
正面からのその声に我にかえると、相葉さんが怪訝そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「…あっ、ごめん!えっ、潤が?」
「違うかずだよ、なにどうしたの?
翔ちゃんほんとおかしいよ?」
"熱でもある?"と言ってこちらに伸ばされた手に、反射的に後ろへ身を引く形になってしまった。
あ、まず…
ほんの一瞬、相葉さんが悲しそうな瞳をしたのを見逃さなかった。
「…ほんとに大丈夫〜?
明日ついでに大野先生に診てもらったら?」
無理に声色を明るくして笑いながらそう言ってから、食べ終えた皿を持ってキッチンへと立つ。
その後ろ姿を見つめて、また自己嫌悪に陥った。
あぁ…
ほんとは触れてほしいのに…
なんでこんな反応になってしまうんだ。
…ばかだな、俺。
自分にだけ聞こえるくらい小さくため息を吐いて、まだ半分も残ったオムライスをゆっくりと口に運んだ。