煩悩ラプソディ
第14章 恋も二度目なら/SA
「…ふぅん」
「…へ?」
長々と話したあとの感想にしてはあまりに短すぎるその言葉に、肩透かしをくらったように間抜けな声が出た。
「いや…あの、だから…」
さほど広くはない診察室。
その主は、備え付けの給湯設備からマグカップを二つ持ってこちらへ歩いてきた。
"はい"と渡されたマグカップには、可愛いウサギの絵が描かれてある。
もうひとつには、これまた可愛いクマの絵が描かれてあって。
"可愛いでしょ"とふにゃっと笑うその笑顔に押され、つられて苦笑いを浮かべた。
今日は午後からの出社だったから、朝イチで子どもたちの病院に来た。
病室に行くと、廊下の前方から子どもたちが元気よく走ってきて看護師さんに叱られていて。
昨日相葉さんが言っていた通りの様子に思わず顔が綻んだ。
そんな子どもたちの病状の経過を聞こうと、主治医の大野先生を訪ねて今に至る。
「…で、櫻井さんはどうしたいの?」
「…え?」
「うん、櫻井さんはね、どうしたいのかなって」
動物のぬいぐるみや車のおもちゃが並ぶ雑然としたデスク。
そこに溶け込むように座る大野先生は、カップに息を吹きかけて黒縁眼鏡を曇らせながら続ける。
「相葉さんと、どうなりたいの?」
ずずっと甘いココアを啜りながら曇り眼鏡のままこちらを見た。
実は、大野先生にだけは俺たち"家族"のことを話している。
相葉さんも俺も打ち明ける時は相当覚悟して行ったけど、先生は何食わぬ顔で"良かったね、家族ができて"と言ってくれた。
もともと不思議な感覚を持った人だなと思ってたけど、こうも簡単に受け入れてくれるとは正直思ってなくて。
俺たちにとってはすごくありがたいことだったし、何より子どもたちがこの大野先生をすごく慕ってるから。
この関係が壊れなくて本当に良かった、って相葉さんと安心してた。
んだけど…
投げかけられる短い問い掛けに固まってしまった俺に、先生も同じようにじっと答えを待っている。